遺恨
帰り道。
カース・オブ・マイハートについて調べるため水神公園に寄る。
外でいろいろと調べたが、収穫は無く、京子の提案でこの間の喫茶店に入ってお茶をすることにした。
「ヤツはちょうどここに座ってたんです。こーんな感じの仏頂面で外を見てました」
できる限り覚えている姿でみんなの前で真似をする。
今、俺らが座っているところは、カース・オブ・マイハートがコーヒーを飲んでいた席だ。
「しかし、灯台下暗しとはまさにこの事だな。こんな近くに敵が居るだなんて思ってもみなかった」
「たしかに~」と言いながらヤツの真似をして外を眺める。
そこは、魔物が現れた場所がよく見えて、公園全体の人の流れが把握しやすい絶好の場所だった。だから、この席でゆっくりとコーヒーを飲んでいたのだと直感的に閃いた。
「ああ、なるほど!ここからだったら公園の人の流れが把握しやすいし、あの魔物……たしか『魔将バルヒトニス』が召喚した巨人が出てきた場所がよく見える!」
思わずその閃きを共有するために言うと、ビーニャが驚いたように声を上げる。
「ユウさん!いま!バルヒトニスって言いました!?」
「ええ。カース・オブ・マイハートが言ったんです。最初に出てきたのはそいつが召喚した、巨人と狼の魔物でしたけど」
「そんな!?……確かに、バルヒトニスは配下の魔物を召喚できる特殊能力があります。でも、バルヒトニスはお父さまが破壊王ガルクニコフ・ガランゲイマルクを討ち滅ぼした時に死んだはずです!」
「破壊王ガルクニコフ・ガランゲイマルク?」
「ガラクニコフは近接戦闘では無類の強さを誇る魔物の王だった方です。二本足で立つ、角の生えた大きな雄牛のような姿で、巨大な金棒を振り回し、身の丈は人の3倍はあり筋骨隆々であったと言われています」
思わず固唾をのんだ。
ビーニャは話を続ける。
「彼は敵に対して容赦はしないと聞いています。領地を奪うために村や町を景観が変わるほど破壊し、住んでいた人を皆殺しにした事も1度や2度ではないと言い伝えられています。だから、畏怖を込めて破壊王と二つ名で呼ばれていました。ただ、配下からは神のように崇められていまして、その影響力はすさまじく彼の国を併合したときに、生き残った数人の指揮官たちも全員自害したと伝えられています。なので、魔将と名のつく彼の配下たちは全て亡くなっているはずなのです」
店長が思い出したかのように語りだす。
「ああ!居たね。そんなやつ。確かルールとアルバーニアの3人合わせて3大魔王とか言ってた奴の一人だったよね?まあ、ルールは僕のお嫁さんにしたけど」
「はぁ?」
「たしか、魔女王ルール・レキサンド・カサーノの国を併合するとき、叔母さまのほうから求婚したのですよね?」
「そうそう!『私があんたの嫁さんになった方が国を治め易いだろ!?べっ!別にあんたに惚れたわけじゃないんだから!勘違いしないでよね!?』ってベタなセリフ言いながら顔を真っ赤にして僕にいいよって来たんだよ。だから、二番目の嫁さんにしてあげたの」
「はぁ」
「まてよ……そういえば、ルールを嫁さんにしたあとに、ガラクニコフがめちゃくちゃ怒って攻めてきたんだったなぁ。だから、ついでに逆進攻して彼の国も併合したんだった」
「当時、ガラクニコフとルール叔母さまは、罵り合いながらもお互い協力し、妖王アルバーニアを抑えていたと記録があります。一説によればガラクニコフはルール叔母さまに惚れていたとも噂が……叔母さまは、その話については何も答えてくれませんでしたけど」
「ルールはそういうところがあるからね。昔の……特にプライベートの事はあまり語りたがらないんだよ。でも、確かにガラクニコフはその逆進攻の時に僕が倒したよ。」
「しかし……死んだはずの魔将がなぜカース・オブ・マイハートと共に現れたんだろう?」
「わかりませんが……死んだはずのガラクニコフが関係しているのかもしれません」
「死人が関係してくるなんて変な話。お~やだやだ。僕はお化けの類は嫌いなのに~」
店長が呆れるように言った。
京子が「はぁ~」と溜息を付き、呆れたように語る。
「謎がまた増えた……私の七色刀との関係性もよくわからんというのに。困ったものだ」
「どうにかして、彼を捕まえて話を聞かないと……でも、正直に話してくれそうにないなぁ~」
「裕次郎。それは姉であり、そういう尋問の専門家である梓さんに任せればよい」
「そうだね。他人には言えない事情もありそうだからね」
「ふぅ~」と一息ついて、京子おすすめのハワイコナという銘柄のコーヒーを一口含む。
味の方はよくわからなかったが、何となく気分が落ち着いた。
「……ところで、ユウさん。エルさんについては、もう諦めました?」
「ぐっ!…げほっ!ごほっ!」
ビーニャの不意打ちに、思わずコーヒーが気管に入り咽せる。
そんなことお構いなしに話を続ける。
「遠い異世界の恋人より、近くの幼馴染ですよ!京子は一途で可愛らしいじゃありませんか!なんで気持ちに応えてあげないのですか!」
なぜか怒り出すビーニャ。
京子は顔を真っ赤にして言葉を遮る。
「にゃっ!にゃにをいいだしゅのら!」
残念ながら突然すぎて噛んでしまったようだ。
「京子も京子です!せっかく気を使って二人っきりにしたのですから……もっとこうガバッ!と既成事実を作ってしまえばいいんです!」
京子は耳まで真っ赤にして「きっ!」と言ったままフリーズした。
「まあまあ、僕じゃないんだから」
店長……それ、フォローになってません。
「ユウさん!あなたは本当に男なんですか!こんな可愛い娘とお家で二人っきりだったのに一緒にご飯食べて和解しただけってなんなんですか!?普通なら、高ぶり合ったお互いの気持ちが爆発して合体する勢いじゃないですかっ!なんで口づけの一つや二つ起こらないのですかっっ!まったくもうっ!!」
「え~~!」
苦笑いしか返せない。というか、誰か止めてくれ。
突然、ビーニャが隣に座ってフリーズしている京子を抱きしめる。その瞬間、京子が「びっ!」と言って体をビクンと震わせ、さらに固まった。
しかし、ビーニャは優しく京子の顔を胸に誘い、まるで赤子を癒すように撫でた。
「私は友達だから、こうやって慰める事しかできない。ああ……愛しい京子。このまま連れて帰りたい。そうだ!また一緒にお風呂に入りません?そして二人で流し合いっこして英気を養いましょう!?」
ビーニャの瞳の奥で、怪しい光が灯ったような気がしたが気のせいだろう。
京子は相変わらず固まったまま動いていない。
店長は「お!百合展開だ!ハハハ」と笑っている。何を考えているのだろうか?
俺は、苦笑いを深め、気分を落ち着かせるようにカップに残っていたコーヒーを飲みほした。




