闇世界
闇世界の居城。
その玉座の間でカース・オブ・マイハートがかしづいている。
相手はもちろん、破壊王ガルクニコフ・ガランゲイマルクと獣王ヤーベルだ。
玉座でニヤニヤと笑うガラクニコフは楽しそうにカース・オブ・マイハートに言った。
「面を見せろ、カース・オブ・マイハート。で?どうだったんだ?」
「はっ!まずもって、ガラクニコフ様にお借りした魔将バルヒトニスを倒されてしまったことをお詫びいたします。しかし、随行者はうまくヘイトに乗り、能力を開放しました」
ヤーベルが唸るように語る。
「その様子はだいたい見ておったが……予想通りというか、予想以上のようじゃのう」
「ふん!想定内だ。大したことではない。それより、相手の能力が知れたというのが最大の功績だ。その功績に比べれば、バルヒトニスなぞどうでもいい。よくやった、カース・オブ・マイハート」
「そのようなお言葉……ありがとうございます。今後は、いかがいたしましょう?」
ガラクニコフは勝ち誇ったかのように笑い、ヤーベルを見る。
「これで文句はね~な?ヤーベルよ。次は俺様が全軍を出して地上に出る。いいな?」
「仕方ないのう~。余でも、あれだけの“恨み人”を同時に相手にするのは骨が折れる。斬られた体が恋しいのう~。あれさえあれば、そのような事はなかったのにのう~。口惜しや、口惜しや」
「はっ!爺ぃは残って恨みでもつのらせてろってんだ。俺様が先にタイチコフの糞野郎を八つ裂きにして、ついでに随行者も屠って花道は作ってやるよ」
「すまんのう~」
「いいって事よ。しかし、“我らが神”に感謝しないとな。世界は違えど、俺様のように体を切り刻まれた感覚を共有できる同胞に最後に合わせてくれたことを。……ヤーベルよ。先に逝ってるぜ?」
「ああ。余はお前が恨みを晴らすことを期待しているぞ」
「ははっ!任せろ!最後に悪いが、ちょっとばかしカース・オブ・マイハートを借りるぜ?」
「よかろう。……いけるか?」
「はっ!仰せの通りに」
「よし!“我らが神”に陳情だ!少しばかり準備がいる。カース・オブ・マイハート。準備を頼む」
「はっ!」
カース・オブ・マイハートは一礼して下がり、部屋を出る。
同時に、ガラクニコフは立ち上がり「うぉおおおお!」とけたたましい咆哮を上げた。
「これでお主の声も聞き納めか……最初は何とも騒々しいヤツだと思ったが、今となっては懐かしいのう」
「そりゃ褒めてんのか?まあ、いいか。ところで、お前はヤツの望み……いつ叶えてやるんだ?」
「ヤツ?」
「カース・オブ・マイハートの事だよ。だから、ヤツは俺様たちに協力してるんだろ?」
「そうじゃのう……じゃが、余にそのような力はない。“我らが神”に陳情するぐらいしか手はないのう」
ガラクニコフは目を少し開き、驚く。
「おいおい、そりゃねーぜ?ったく!……相変わらずひでーヤツだな。そんな適当だから、現地人に恨まれて殺されたんだろ?」
「下民の感情なぞ放っておけばよい。余は力の神である。あのような特殊な事情なぞ手に余る。じゃが、自由に動かせる手駒は欲しい。じゃから希望を持たせ利用するだけじゃ」
「身勝手なやつ。そんな手の中で動き回るヤツは……何とも哀れだな」
「おや?お主はいつの間に転移者の肩を持つようになったのだ?嫌いではなかったのか?」
「だいっきれーだ!だがな、それとこれとは別だ!功績にはそれ相応の報酬で報いてやるのが俺様の信条だ。たとえ、個人的に嫌いな種族でもそういう仁義の筋は通す」
「流石は、破壊王と恐れられながら崇められたガラクニコフじゃのう。今後の参考にするとしよう」
ガラクニコフは「はぁ~」と溜息を付き、呆れるように肩をすぼめた。
ヤーベルの言葉は単なるお世辞であり、参考にするつもりはサラサラないという事がわかっているからだ。
「はっ!老い先短い余生で、何を参考にするのやら……あきれるぜ。まったく」
「余は余。お主はお主じゃ。ヤツも最初にお主に見つけられれば良かったのかもしれんのう?」
「まあ、俺様だったら絶対助けねーな。『次元の狭間』に居る人間なんか、興味ねーし」
「ふふ……では、これも運命だ。そして、願いが叶わぬのもまた、運命だ」
ガラクニコフは「はぁ~」と溜息を付いた。そして、少しだけあの転移者に同情した。
しかし、ヤーベルを責めようとは思わなかった。
彼が居なければカース・オブ・マイハートは『次元の狭間』を出られなかっただろうし、叶わなそうだが希望をもって生き返ることもできなかったであろうと思ったからだ。
少しだけモヤモヤした気持ちを感じていたが『それもまた運命か……そうかもしれん』と無理やり納得させた。
ガラクニコフはゆっくり歩きながら、今生の別れをおこなう。
「……この借りは、あの世でたっぷりと返してやる。じゃあな」
「ああ。よろしく頼むぞ」
ガラクニコフは振り返らず右手を上げて玉座の間を後にした。
ヤーベルも立ち去り、誰もいなくなった玉座の間。
しかし、先ほどまで誰もいなかったはずのガラクニコフが座っていた玉座の後ろから足音がする。
姿を現したのは燕尾服を着た執事、鬼人マルクハルトである。
マルクハルトは少しだけ玉座を触りながら語る。
「善因善果、悪因悪果。善因楽果、悪因苦果。業が輪廻し、今生に因果応報する。破壊王ガルクニコフ・ガランゲイマルク様と聖翼王タイチコフ・ザキヤマ様の因と縁。さてどうなるのでしょうかねぇ?」
マルクハルトが言葉を終えると、玉座が粉々に砕け散り、光ながら天に上った。
すべてが消滅すると、満足そうにマルクハルトが天井を見つめ、玉座の間を立ち去った。
5月21日『警察署と闇世界』から『闇世界』に改稿。




