水神公園
本当は魔法で飛んで行きたかったが、残念ながら非常に目立つ。
だから携帯で調べ、最短時間で行けるルートである地下鉄を使った。
地下鉄の駅を駆け上がり、急いで水神公園に行く。
水神公園にたどり着くと、異様な光景が目に飛び込んできた。
巨石がオブジェのように置かれてる所に、植物のような茨で作られた巨大な十字架ができている。そこに、縛られているのは紛れもなく京子だった。
しかし、その下ではかなり距離をあけて二人の女性が大声で言い合いをしている最中だった。
「この3年間どこほっつき歩いてたんだ!バカッ!」
「ちっ!違う!僕は心じゃない!人違いだ!」
「はぁ?さっき私の事、姉さんって言ったじゃねーか!?」
「いやっ!違うっ!聞き間違いだ!?えっと…その~」
「い~~や!ぜ~~~ったい言った!間違いなく言った!」
「ちっ…違う!ねっ……ネコさん!とか、ネモさん!って言ったんだ!」
「ほぉ~~?まだそんな苦しい言い訳を……じゃあ、この場で、黒井 心の黒歴史を喋りつくしても問題ないな?だって違うんだろ?……え~~っと!黒井 心は12歳の時に、私の下……」
「やめろーーーー!それは言ったら、らめーーーーー!!」
泣きそうになりながら、眼帯をしているボーイッシュな黒髪の女の子が絶叫した。
もはや、言葉を噛んでいようがどうでもよく、ただ、濃い茶髪のロングヘアーの美女から放たれる言葉の暴力を遮るのに必死だった。
よくわからない状況だ。
しかし、よく見ると二人とも見たことある顔だった。
「あっちの人は喫茶店で、こっちは竜宮の湯に居た人だよな?」
ロングヘアーの方は見た目や言動はチンピラだったけど、京子をあんな茨の十字架に縛り付けるような人ではないと思う。という事は、あっちのボーイッシュな方が犯人か。
近づきながら叫ぶ。
「おい!京子に何をする!すぐこっちに引き渡してもらおうか!」
二人は俺の方を向く。
眼帯の方はにやけ、ロングヘアーの方は驚いていた。
そして眼帯の方が「クックック」と笑いながら語りだした。
「やっと来たか!轟 裕次郎!……いや、『勇者ユウ』と呼ぶべきか?」
「なんで俺の名前を知っている!?」
「君が有名人だからさ!僕は闇世界の調整者だからね。その辺の事情はすでに知っている。……本題だ、お前が持っている『七色刀』をこちらに渡してもらおう。……おっと、不可視化はしているようだが、僕には見えているからな?その背負っている刀の存在を」
「クッ!」
不可視化を解く。そして、右手に持った。
その時、ロングヘアーの方が強い口調で語りだした。
「おい!裕次郎だっけ?……渡す必要なんかないよ。これは営利目的等略取及び誘拐罪の現行犯だ。こっちの仕事だよ」
そう言って、手帳を掲げる。
それは『警部補 黒井 梓』と書いている本物の警察手帳であった。
本当に人は見かけによらないものである。
「おい!心。せめてもの情けに私がワッパをかけてやっから、早くその気色悪い十字架からその子を離せ」
心と呼ばれた女の子は、先ほどとはうって変わったように静かになった。そして突然笑い出した。
「クックック……アーハッハッハ!役者は揃った!もういいだろう」
「?」
「黒井 心は死んだんだよ、姉さん。いま、この舞台にいるのは、闇世界の調整者、暗黒騎士……カース・オブ・マイハートだ!」
心がそう叫ぶと、黒い球体が全身を包む。
徐々に、球体が縮むと、中から黒いフルプレートの鎧に漆黒のマントを翻す騎士が笑いながら出てきた。
カース・オブ・マイハートは両手を広げ、支配者のようなポーズを決めて言い放った。
「さあ……宴を始めようか?」
俺は固唾をのんだ。
しかし、梓さんは違った。いきなり腹を抱えて笑い出した。
「アッハッハッハァ!!うっ……うたげ!宴って!!そんなセリフ!初めて聞いた!!ハハッ!」
まさに大爆笑である。
カース・オブ・マイハートは支配者のようなポーズのまま、鎧をカタカタいわせて震えだした。
「わっ!わらうなーーーー!!」
「いやっ!ハハッ!無理や!むりむり!」
梓さんは笑いながら手でムリムリとジェスチャーした。
カース・オブ・マイハートは拳を握り、地団太を踏んだ。そして、一歩踏み出した。
その瞬間、梓さんが動く。
「動くな!それ以上動くと、肉親だろうが私は躊躇しないよ」
電光石火の早業で背中から拳銃を取り出し、カース・オブ・マイハートに銃口を向けて構える。真顔で見据えるその眼は本気だった。
しかし、カース・オブ・マイハートは呆れたように「フッ」と息を吐いて、両手を上げてジェスチャーする。
「愚かなことだ……我々には現代兵器は通用しない。それは姉さんがよく知ってるでしょう?」
「さてねぇ?試してみるかい?」
カース・オブ・マイハートは一歩前に出る。
梓さんは躊躇わず引き金を引いた。当然、防御魔法が展開される。
しかし、銃弾は防御魔法を貫き、カース・オブ・マイハートの肩に当たった。
銃弾は肩の鎧をへこませ、違う方向に飛んで行った。
肩に当たったその衝撃で、カース・オブ・マイハートがよろめく。
「なっ!……なんだ!僕のパッシブスキルの防御魔法を貫くなんて!」
「ハハッ!技研の連中もたまにはまともに仕事するじゃないか?本当に効くみたいだ……今のはワザと肩を当てたんだ。次は確実に急所を撃つ。さあ、心!観念して早く両手を上げな!」
カース・オブ・マイハートは苦虫を噛みしめるように口を噛みしめ「クッ!」と言った。
そして、マントを翻す。
「……興が覚めた。僕は帰る」
カース・オブ・マイハートは振り返ろうと無防備な背中を俺の方に向ける。
飛び込んで京子を救うチャンスは、今しかない。
剣を抜き、魔法で飛んだ。
完璧なタイミングだった。
カース・オブ・マイハートを悠々と飛び越え、後ろにいる茨の十字架を捉えた。
そして、根元を切るように剣を横に振るう。
「ガキィッッッ!!」
茨を切る直前、何者かに邪魔をされた。
そこには、俺を見下すように、鎧を着た身長3メートルはある古代ローマの兵士のような魔物が槍を地面に突き立てていた。
俺は、距離を取るため梓さんの近くまで飛んだ。
カース・オブ・マイハートが冷静に語る。
「僕の代わりに、彼……魔将 バルヒトニスが相手をするよ。ちなみに、その茨の十字架は『魔将の生贄』ていうバルヒトニスの特殊スキルで、縛り付けられているもののエネルギーを吸い取っちゃう物なんだ。早く助けてあげないと大泉京子は死んじゃうからね?クックック……では、さらば」
カース・オブ・マイハートはそういうと、魔方陣を展開させた。
「まてっ!こころーーー!」
「もう二度と……僕の前に現れないでくれ。姉さん」
暗黒騎士は魔方陣に吸い込まれ、消えた。
「ぐおおおぉぉおおおおおお!!」
バルヒトニスは叫んだ。
そして、バルヒトニスの叫びに呼応するかのように、地面から、昨日現れた巨人の魔物と、狼の魔物が現れた。
「うぅっ!」
京子が意識を失ったまま、鈍い声を上げる。
どうやら、京子から何かしらのエネルギーを吸収し、魔物を召喚したようだった。
巨人が3体。狼は……数えきれないぐらい発生している。
俺は、奥歯を噛みしめ、剣を持つ手が震えてきた。
沸々と湧き上がるどす黒い感情が俺を支配する。
『あの糞女は逃がしたが……こいつらは確実にやる。囮とか、裏をかくとか……もうどうでもいい!』
そして、息を大きく吐いた。
『覗き見るなら見やがれってんだ!カース・オブ・マイハート!!今から本気でこいつらを殺してやるよ』
思わずニヤリと笑ってしまった。
梓さんが俺に近づき、耳打ちする。
「どうするよ?ワラワラといっぱい出てきたぜ?巨人も3体いるし、狼なんかわけわかんねーぐらいいるよ?」
「梓さん」
「なんだ?」
「自分の身は自分で守れますか?」
「ああ。そのつもりだが?」
「そうしてください。そして、これを預かってくれると助かります」
そう言って、七色刀を渡す。
「お、おう。で?お前はどうするんだ?」
「決まってますよ。こいつらを殺す。俺の大事な仲間に傷つけたこいつらは皆殺しです」
「は?おい!どうやって!……」
俺は、返答をせずに真上に飛んだ。
狼の群れに向かって、追跡魔法で強化した最大級の爆炎魔法を放つ。
爆音が轟き、一瞬にして狼どもが吹っ飛び、燃え上がる。
すぐに、魔法で巨人の近くまで飛ぶ。
斬撃強化スキルを発動させ、魔法で剣の3倍ぐらいの長さの光の刀身を発生させた。
そして、斬る。
斬る。
斬る。
巨人達は胴体から横一文字に斬られ、左右に分かれて絶命する。
魔将 バルヒトニスに歩いて近づく。
魔将は一瞬の惨劇にひるんだのか、少しだけ後ずさりする。
しかし、「ぐぉおおおお!」と雄たけびを上げて槍を振り上げ、刺してきた。
しかし、魔将の槍は空を切って、地面に刺さる。
それは俺が寸前で飛んだからだ。
そして、大上段に構え、真っ二つに斬った。
魔将は噴水のように紫色の血を吹き出し、左右に分かれて絶命した。
狼を燃やし尽くした土煙がひくころには、戦闘はすでに終わっていた。
呆気にとられている梓さんが俺に言う。
「お……お前。いったい…」
「俺ですか?もちろん轟 裕次郎ですよ?まあ、異世界カミオンでは、『勇者ユウ』なんて呼ばれてましたけどね?」
にこやかに笑いながらそう言った。




