↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンフォニア王国物語〜僕の知らない父さんと母さんの話〜  作者: 椿


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/38

27話 セドリックside




ザックが熱を出したとアイリスが慌てた様子で魔道通信をよこしてきたのが三日前。


「もしもしセドリック?

ごめんなさい、仕事中に」

「アイリスならいつでも大丈夫だよ。

どうしたんだい?」


騎士団の任務中。

王都から少し外れた山林で増えすぎたゴブリンが集落を作ってしまったから退治してほしいという依頼を受け、僕は現地で仕事をしていた。


ゴブリン達は急所を斬りつけるたびに、ギャァギャァとうるさく鳴く。

通信具が音を拾わないようにするのは少しばかり骨が折れたけど、これはアイリスからの通信。

一言一句逃すつもりなく聞いていた。


「ザックが授業中に倒れたって連絡もらって…」


ザシュッとゴブリンの首が再び飛ぶのを眺めていたらそんな声が聞こえて一瞬手が止まってしまった。


「………ザックが?」

「保健医の話によると流行り風邪らしいんだけど…多分初雪に浮かれて外で遊んだんだわ」

「はは…ザックらしいね」

「でも…本当にすごく苦しそうで…どうしよう…

大丈夫かな…解熱剤も打ったらしいのに…」


耳元で聞こえるアイリスの震えた声。

本当は今すぐ飛んでいって抱きしめたい。

けれど流石に目の前の仕事を放り出すわけにもいかないから、なるべく安心させるように声のトーンを落として喋るようにした。


「…保健室で処置もしてもらっているし、今は様子を見るしかないんだろう?」

「そうね…」

「それでも心配だよね」

「…っ当たり前じゃない!

もしこのまま熱が上がったら…?もし…」

「アイリス」

「…っご、ごめんなさい」

「大丈夫だ、ザックなら。

母親の君が取り乱してたらザックも不安になる、今は落ち着いて深呼吸だよ」

「…そう、そうよね…それで…移すといけないから冬休みを少し早めたらどうかって。

だからこの後目を覚ましたら私の車で家に連れて帰るわ。」

「なにが必要なものある?買って帰るよ」

「ゼリー飲料と冷却シートお願いしてもいい?

家にもあるけれど心許ないから…」

「あぁ、もちろん」

「ありがとう、よろしくね」


ピッと音を立てて魔道通信が切れた。

最後にはいつもの気丈なアイリスを取り戻せていて安心したけれど、声が聞こえなくなった途端僕の方が少しだけ寂しい。

僕としては会議中以外ならいつだって繋いでたいくらいなんだけど。

なんてふざけたことを言ったら怒られるかな、「それよりザックは!?」って

ザックももちろん心配に決まってるのに。


「セドリック隊長?」

「…被害者は全員運び出した?」

「はい」

「あとはゴブリンを全滅させるだけ?」

「そうですね」

「そうか、なら少しペースを上げよう」

「えぇ!?」


今でも十分な速さでゴブリンを殲滅しているとは思うが、もう少しだけギアを上げた。

とにかく僕は買い物をして家に帰りたいんだ。

ザックの様子も見たいしアイリスが不安ならその不安ごと拭いたい。

僕はこんな胸糞悪い場所には一秒だって長く居たくなかった。


「さすが閃光…」


呆然と僕の恥ずかしい通り名を呟く部下を置いて行く勢いでゴブリンを切り捨てていく。


今回、ただでさえ騎士団に依頼が来てから二日ほどが経っていた。

もちろんその間も何もせずにいたわけではない。

事前準備や他の依頼との兼ね合い。

人員配置や申請といろいろやって、最短で来ても二日だった。


その間も集落のゴブリン達は商人の馬車を襲ったり、村の畑を荒らしたり…それから、女の子を誘拐したりもしていたみたいだ。


被害者達は大抵酷い状況で見つかる。

膨れた腹、体液に塗れ悪臭を放っていて、逃げられないように足の腱を切られている。

散々泣き叫んだだろう喉は切れ、心はとっくに壊れてしまっていることがほとんど。

そんな被害者を見てどんな悲劇があったかを想像するのは容易いことだった。

一度そうなってしまうと社会復帰は難しく、修道院に入って静かに余生を過ごすらしい。

助け出しても死んだ方がマシだと言って自死を選ぶ例も少なくないと聞く。

せっかく助けたのに、なんて思わない。

ただもう少し早ければ違ったのかな、とやるせない気持ちにはなるけれど。


残党がいれば、またそのゴブリン達が集落を作ってしまう。

一度人を襲うことを覚えた個体は繰り返す。

だから確実に始末しなければならないのだ。


それは、ゴブリンの生態としては正しい。

正しいけど許せることではない。


僕が被害者にしてあげられることはないし、早く医者に診てもらうのが一番だ。

それでも僕ができることといえば、この煩わしいゴブリンを苦しんだ者の分まで根絶やしにすることだけ。

そんな気持ちで僕は剣を振り上げた。


_________


ゴブリンの殲滅を終え、集落も燃やした。

これで再び繁殖することは当分ないはずだ。


「じゃあ、今日はここで解散」

「え…え!?」

「…なんだい?まだ何かある?

後一時間で定時だから、君たちは一度騎士団に戻って帰宅申請を出したら本日の業務終了だ。

報告書類は僕が持ち帰り、明日には提出するし、その流れで夜担当の隊員への引き継ぎもするけど?

君達も戦闘があったんだから早く帰って身体を休めたほうがいい。」

「は…はい」

「うん、じゃあまた明日」


唖然とする部下達を置いて学生の頃から変わらぬ愛馬のウインドホースに跨り、騎士団の方角へと走らせる。

昔なら振り落とされていただろう速度も今ならなんの苦もなく乗っていられるようになった。

転移魔法が使えたら便利なんだろうけど、僕は魔法使いじゃないし…

車より速いからこれが最速の手段だと思う。

本当ウインドホースには昔から世話になりっぱなしだ。


誰よりも早く騎士団に戻り、書類をまとめ、夜勤に来た隊員への引き継ぎを終わらせ、急いで帰宅する。

今日も定時ぴったりだ。

僕が騎士団を出る頃にやっと騎士団に帰ってきただろう隊員達とすれ違ったけれど皆空いた口が塞がらない様子だった。


「流石…閃光…」


やめろ、その恥ずかしい名前で僕を呼ぶんじゃない。

僕はただ急いで家に帰りたいだけなんだから。


もちろんアイリスに頼まれた買い物も忘れない。

ゼリー飲料や冷却シートはもちろん、他にも食べやすいだろうものをカゴに詰めて行く。

そのまま冬休みならザックの好物のスナック菓子なんかも買って帰ろうかな…


そうやって必死になって帰ったのが三日前の出来事だ。

その日はアイリスの言う通りザックはぐったりしていたし、アイリスも気が気じゃないとばかりにリビングやキッチンを行ったり来たりしていたのに。


それが今はどうだ。

どうしてこんなことになってるんだろう。

僕は今日の仕事を終えて、普通に帰宅して、玄関のドアを開けただけだ。

ただ三日前と違うのは廊下の先には頭に冷却シートをつけ鼻を垂らした息子が仁王立ちしているということ。

どうして寝てないんだろう。


「父さん!」

「ただいまザック、アイリスも」

「お帰りなさい」

「そんなことより!

どうしてあんなことしたんだよ!!」

「ん?何が?」

「母さんが好きだって、剣聖ギルバートにも嫉妬してたって言ってたくせに聖女マリアンヌと恋人だったって話!!」

「え!?」

「母さんから全部聞いた!可哀想だった!

ちゃんと全部素直に吐いてもらうからね!!」

「ま…まぁとりあえず廊下じゃなんだし…

リビングに行こうよ。

それに、ザック、体調だってまだ…」

「誤魔化さないで!!」

「えぇ…」

「どうしても話せないっていうなら僕はここで服を脱いで外に出るから」

「病み上がりが何しようとしてるんだい?」

「本気だよ!?」

「わかったわかった、ちゃんと話すから

とりあえず廊下は寒いからリビングに行こう。

また風邪がぶり返してしまうから」


ザックが怒っている後ろでアイリスがものすごく申し訳なさそうな表情をしていた。

多分こうなるとは思ってなかったんだろう。

そもそも先日の件でアイリスは「子供に親の恋愛事情を聞かせるなんて」と頭を抱えていたから彼女が進んで話したがるわけがない。


それにしても、よりによって[聖女]の話か。

このまま後ろにある玄関ドアから出て行ったらどうなるかな。

いや、ザックのことだから本気で裸になって外に飛び出るかもしれない。

逃げ道を完全に塞がれている僕は覚悟を決めるしかなかった。

あの時どうしてマリアンヌ様と付き合ったのか、思春期に起こした間違いの一つを堂々と息子と当時好きで今も好きな妻に告白しないといけないなんて。

そもそも学生時代の僕がやらかしすぎてるのがいけないんだけど。

苦虫を噛み潰したような気持ちで僕はリビングへのドアを潜った。


「座って父さん」

「まずは手を洗ってシャワーを…」

「父さん?」


息子の圧に勝てない父親ってどうなんだろう。

でもザックが譲ってくれる様子はない。

両手をあげて言われた通り座るしかなかった。


「さぁ、話して」

「何を?どこから?」

「聖女マリアンヌについて、学園に[聖女]が来たところから」

「…やけに具体的だね…」

「父さんは聖女様のことを綺麗だと思ったの?」

「まぁ、綺麗な人なんじゃないか?」

「母さんより好きだったの?」

「それはない。絶対に。

僕はずっと昔から今もアイリス一筋だ。」

「じゃあなんで付き合ったの、聖女様と。

母さんが誤解するとは思わなかったの?」

「ぐ…いや、うん…それも作戦だった…」

「はあ?」


ザックに睨まれながら僕は重い口をゆっくりと開いた。


「そもそもの始まりはね…」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。