23話
父さんの過去、母さんと仲良くなるのに必死で、すぐにヤキモチを妬いて、操縦レースで魔王軍幹部と戦って怖い思いをした。
そんな話は聞いてはいたけど、今回の話を聞いてまた少し父さんのことがわかった気がする。
父さんも僕と同じようにこの学園で過ごしていた。
そんなことはわかってた。
でも、そうじゃなくて、学生としていろいろ悩んでいたんだ。
僕と同じように。
父さんが話してくれた当時の悩みの全てが今の僕と同じとは言わないけど、僕が今考えてモヤモヤしてるものととても似ている気がした。
母さんが「ザックは本当にセドリックにそっくりね」ってよく言うけど、こういうところのことを言っていたのかもしれない。
そう思ったらなんだか僕の中で少しだけ何かが変わったようなそんな気がした。
「…ザック、大丈夫なのか?」
「うん、もう大丈夫。
………あのさエリオット」
「なんだ?」
「ありがとう。
あと、今日の僕ずっと感じ悪くてごめん」
「っ…本当だよ馬鹿野郎!!」
そう言って首に腕を回してきたエリオットの手が小さく震えていた。
心配をかけたし、傷つけてしまったと思う。
もしエリオットがそんな様子だったらきっと僕も同じように心配して、傷ついただろうから。
申し訳ないのと同時にすごく嬉しかった。
「次、二人三脚なんだけど、エリオットとアイザック二人で行けるか?仲良いみたいだし?」
「「はい!」」
僕とエリオットの仲の良さをもってしても、結局先輩達には勝てなくて二人三脚は六位だった。
でも不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
先輩達の凄さを改めて見て、学んで…
素直に自分の現状を受け止められたと思う。
そして剣術技能大会、黄色寮の総合成績は七寮中三位という結果で終わった。
__________
「で?あの時何があったんだよ?」
「あぁ、それは…」
その日の夜。
エリオットに聞かれて、僕が競技中に感じていたこと、水道で三人の先輩達に絡まれたこと、父さんと話して改めて父さんみたいになりたいと思ったこと…
そんなことをポツリポツリと話した。
僕は二段ベッドの下の段。
エリオットは上の段で寝っ転がりながら。
「……へぇ随分と狡いことをする先輩がいたものだな?」
「エリオット怒ってる?」
「当たり前だろ。
ザックは俺の親友なんだから。
傷つけられたら怒るに決まってる。」
なんの迷いもなく言われたその言葉を聞いて喉の奥がキュッとした。
わかってた。
ザックならそう言ってくれること。
信じてなかったわけじゃないのに、でもあの時素直に頼れなかった自分が少しだけ情けなくて。
「…ありがとう、でも、もう良いんだ
言いたいやつには言わせとけば良い。
で、さ、頼みがあるんだけど…」
「ん?」
「これから放課後、少しずつ訓練していこうと思うんだ
たまにで良いから付き合ってくれない?」
「もちろん。いつからやる?明日早速やる?」
少なくとも今日の僕は感じ悪かったし、心配するエリオットを跳ね除けたから断られても仕方ないと心の中で言い訳してた。
その時は一人でもやろうって。
でも、エリオットは嫌な顔ひとつしない。
それどころか前のめりになって付き合ってくれる。
たとえそれがしんどい訓練だったとしても。
それがどれだけ僕にとって救いになってるか。
言葉だけではうまく伝えきれないけど。
本当に感謝してた。
「…俺のこと凄いってザックは言ってたけど、俺はザックのほうが凄いって思ってるよ」
「何が?」
「俺はただ、あまり気にしないだけだ。
でもさ、お前の場合は違うじゃん
どんなに面白くなくても、理不尽でも、ちゃんと話を聞いて、自分で考えて、自分で道を決めてる。すげぇかっこいいと思うよ」
「なんか照れる」
「お前が先に始めたんだろ…ったく。
もう二度と言わねぇからな」
「エリオット」
「…なんだよ」
「僕と友達になってくれて本当にありがとう
君は最高の親友だよ」
「っ!?ばっかじゃねぇの!?
本当に恥ずかしいやつだな!?」
「照れすぎじゃない?ベッド壊れそうなんだけど
下の気持ちも考えてくれる?」
「気にするところそこかよ!」
咄嗟に誤魔化したけど、口に出した僕も恥ずかしかっただけだ。
男二人で何やってるんだか。
でも嫌な気持ちはない。
心からの気持ちだったから。
「…まぁ、さっきの話に出てきた三人組の先輩についてはちょっと心当たりがあるからどうにかしとくわ」
「え?」
「ザックの爺さんが法務大臣のグレイシー大臣だってなんで気づかなかったかなぁ…
ここは貴族らしくいくらでもやりようが…」
「エリオット怖い……そろそろ寝る?」
「……そうだな、明日から授業再開だし、寝坊して朝飯食いっぱぐれるのもキツい」
「じゃあおやすみ、エリオット」
「おやすみザック」
エリオットと話し終える頃には少し残っていたモヤモヤすらもなくなって、あっさり眠れた気がする。
翌朝は二人揃って寝坊して、結局朝ごはんは食べ損ねてしまったけど、こうして本当の意味で、僕の初めての剣術技能大会は終わったんだ。
「ザック、今日の授業何?」
「素材学と、地形学、それから薬学」
「そういや、素材学って今日から座学じゃなくて裏の森で実際に採取するんだっけ」
「そうそう、ちょっと楽しみだよね」
「変なのあったらこっそり持って帰ろうぜ」
「怒られるよ?やるけど」
剣術技能大会が終わってからは通常の授業カリキュラムに戻った。
この世界のことや魔法のこと、歴史のことを知るのはとてもワクワクするし、もっと知りたいと思う。
別に訓練がつまらないってわけじゃない。
夜にした約束通りエリオットと放課後に訓練だってするようにもなったし。
でもそれとこれとは別だ。
「それではヒール草の特徴についてのおさらいと、実際に気になる素材を探してみましょう。
ヒール草の特徴についてわかる人は?」
「はい!」
「ではブリジット・メイベル」
「ヒール草はどこにでも群生しています。
様々な用途がある一方で、繁殖力がとても強く、採取の際は根本から取ることを推奨されています。
ヒール草の葉っぱは先端が二股に分かれていることが最大の特徴で、似た植物に毒草であるグルエナ草もありますが、比較するためには葉の裏側を確認するといいです。
ヒール草は白く、グルエナ草は斑点があるのが特徴です。」
「よろしい。完璧ですね。」
今日は魔法科の生徒と合同の授業。
ずっと技能大会のために訓練に明け暮れていた僕達は久しぶりにブリジットと会った。
元々所属の寮もクラスも違うし、あまり会うことがないから知らなかったけれど、ブリジットって実はとても頭がいいらしい。
グルエナ草なんて初めて聞いた。
「それではヒール草を一人五株。
それ以外に気になる素材を見つけたら集めてきてください。
また、この森にそこまで危険な魔獣は存在しませんが、スライムや角ウサギ程度はいるので十分に注意すること。
魔獣からも素材は取れるので余裕があったら討伐してみるのもいいでしょう。
集めてもらった素材は学園を介して市場に売られることになるので、後日報酬も払われます。
それが直接の評価として受け取ってください。
もちろん丁寧に採取すれば状態が良くなります。
状態のいい素材はその分高い金額になりますよ。」
先生の話を聞いて僕とエリオットは静かに目配せをした。
きっと考えてることは一緒だと思う。
だって凄いことだ。
両親からもらったお小遣いじゃなくて、自分達で面白いものを見つけて、それを売ったら僕達のお金になる。
母さん達の顔色を気にせず好きなものも買えるんだ、ゲームだって、コミックだって!
「よし!行くぞザック!!」
「おう!たくさん集めて山分けしよう!」
「何買う?やっぱり新作ゲーム?」
「いいね!」
張り切って森の中に駆け出してよくわからないキノコとか、よくわからないきのみ。
よくわからない葉っぱによくわからない石。
片っ端から拾った。
途中スライムも何体か見つけたから倒してみたけど、ほとんど水になってしまって、残ったのはかけたビー玉だけ。
「……何そのゴミの山」
「ゴミ!?ゴミじゃないよ!!」
「貴方達先生のお話を聞いてなかったの?
丁寧に採取すればそれだけ価値がつく。
貴方達の持ってる素材は粗悪品も粗悪品よ
価値なんていいところ50ブロンズよ」
「嘘だろ!?ジュース一本も買えないじゃん!」
支給されたカゴがいっぱいになったから一度持ち帰って先生に見てもらおうと思ったんだけど、途中にいたブリジットが僕達を見てあからさまに顔を顰めた。
そして、開口一番ゴミだって言われたんだ。
「じゃあどうすればいいんだよ」
「まずこのキノコ。
アオキリタケはもう一度その場に生えてこられるように胞子を落とすの。
それからカサの部分が一番重要になるから欠けたり潰さないように根本から優しく取るわ。
それからこの石はただの石。
きのみはただのどんぐりだし、草だってただの雑草よ。
スライムの核は欠けたら意味ないの。
この部分は魔法との相性がいいから魔道具や錬金術によく使われるんだけど、欠けることによって魔力が均等に行き渡らないから良くて不発。悪い時は爆散する。」
「爆散!?」
ブリジットはそう言うと僕らの集めた素材のほとんどを捨ててしまった。
エリオットと二人がっくりと肩を落としたけれど、ブリジットの言うことは多分正しいから反論もできなかった。
「ブリジットは素材学が得意なんだね」
「言ってなかった?私の家は商家なのよ。
だから目利きは昔から鍛えられてきたし、素材学は得意中の得意よ」
「そうなんだ」
「もう時間がないから急いでヒール草の確保をした方がいいわよ。
ちゃんと、根本から優しくね」
「はーい…」
結局残り時間ではヒール草を二人分確保するのがやっと。
それでも最初に採取した物よりは質がいい物だったからジュース一本くらいの価値がついた。
ゲームが買えるようになるまであとどれくらいかかるんだろう。
途方もない時間がかかりそうだ。
「スライムって核を壊さないで倒す方法なんてあるのかな」
「確か、魔獣学では核が体内から出た時点で効力を失うって書いてあったけど、あのどろどろの中に手を突っ込んで引き抜くってことか?」
「うえぇ…」
そんな話をしながら次の地形学の教室へと向かう。
地形学ではこの星の成り立ちから始まって、国や土地の名前、騎士になった時の野営に適した地形や、地形を生かした戦術など幅広く習う。
でも、ちょっぴり退屈だ。
「シンフォニア王国の左が獣人の多くいるガオウ国だろ?右がドワーフ達の多くいるグランディウス、北が…って覚えてられるかよ」
「次回テストに出るってさ」
「国の中にもさらに伯爵領だの子爵領だの紛らわしいったらないぜ。
俺貴族名鑑覚えるのに三年かかったくらいだし…
で?それ終わったら次は薬学だろ?」
「できれば今日はヤギのうんちは触りたくない」
「そんなの今日に限らずだろ」
そうしてなんてことのない一日が過ぎていく。
操縦レースもない、剣術技能大会もない。
特別なことは何もないけど、今日もエリオットとバカをして楽しい一日だったと思う。
明日もきっとまた楽しいことがたくさん待ってると思う。エリオットと一緒ならね。




