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シンフォニア王国物語〜僕の知らない父さんと母さんの話〜  作者: 椿


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22話 セドリックside




僕の父、…ザックのお爺ちゃんがこの国の文官なのは知ってるよね?

文官は文官でも法律を司る法務大臣だ。

知らなかった?伝えたことなかったっけ?

それについては追々話そうか…。

とにかく僕も両親と同じように学問を極め、同じ道に進むように、周囲からは言われていたし、期待もされていた。

でも、幼い頃から騎士に憧れていた僕は、周囲の反対を押し切って、王立学園の騎士科に入ったんだ。

父には勘当だと怒鳴られたし、母には親不孝ものだと泣かれてしまった。

親戚たちは心底がっかりした表情をしていたしね。

入ってしまったものは仕方ない。

でもいい結果を残せなければいつだって除籍する。

そんなことをいつも言われていた。


「お爺ちゃんが?そんなこと言ってたの?」

「ザックは想像もできないかもね

あの人すっかり丸くなって孫バカだから」

「今度、聞いてみようかな」

「それがいい。

きっとお爺ちゃん慌てふためくぞ。」


毎日必死だったさ。

入学して、学園の凄さに目を奪われ、毎日が新鮮で楽しかったけど、純粋に楽しむと言うことはできなかった。

これだけ素敵な学園だからこそ、成績を落として除籍でもされたら嫌だった。

学ぶ機会を失いたくなかった。

だから放課後は毎日、訓練以上に剣を振るったし、走り込みだってやっていた。勉学だって疎かにしなかった。

やりすぎて体を壊すこともあったし、それでも先輩達に勝てなくて歯痒い思いだって何度もしたよ。


初めて会ったのはニ年生の時だっけ?

僕は覚えてなかったけど、その時からアイリスは王子様みたいだったって言ってたね。

でも、当時はまだ周囲からは王子様なんて見られたこともなかったはずだ。

アイリスにだけ王子様に見えたなら本望だけど…実際の僕は毎日泥だらけで訓練して、夜遅くまで勉強してた。

僕の頑張りを見てた人達が友人になってくれた。

本格的に王子様と言われるようになるのは三年……いや、四年生か?それくらいになってからだ。

それまではただ毎日がむしゃらにやり続けて、体の成長とともに少しずつ、本当に少しずつ結果に結びつけていただけだ。

そうして努力を重ねて、アイリスと友達になる頃には父はもう僕が騎士になることに反対しなくなっていた。


でもね、それで良かったわけじゃない。

僕に対する視線の意味も変わり始めたんだ。

セドリックは王子様みたい。

セドリックは優しい。

セドリックならできるはず。

セドリックには勝てるわけない。

セドリックは才能を持ってる。

そんな、羨望の眼差しに。

僕はただ頑張っていただけだ。

特別なことはしていないし特別な力も持ってない。僕は僕でしかない。


そう思うのに、父に認められた後でも必死だった。

周囲に失望されたくなかったんだ。

一度手に入った評価が下がるのがすごく、怖かったんだよ。

困ってる人に手を差し伸べるのは皆が求めてる王子様ならきっとそうするから。

人間関係もうまくいくし、めんどくさいけどそれが正解だとわかっていたから。

僕にだってできないことはあったけど、できなかったら次の日にはできるように練習した。

負けるなんてかっこ悪い。

だからいつしか騎士になりたいという目標すら忘れて、他人の勝手に抱いた期待に応えるために訓練していた。


自分のためじゃなくて。


結果的にあの時期があったからこうして戦争を生き抜いて、アイリスとザックと一緒にいられるんだから悪いことばかりでもないと今なら言えるけどね。


[剣聖]と初めて会ったのは六年生になってすぐのことだった。

勇者アレンが魔を打ち滅ぼすための聖なる剣を取るために迷宮へ挑む事になったんだ。

その補助役として称号持ちの[聖女]と[剣聖]が共にこの学園に来た。

ゆくゆくは魔王軍に立ち向かうためのパーティを組むためにね。

それだけならよかったんだけど…


「どうしたの?」

「アイリスが[剣聖]のファンになったんだ。」

「は?」

「剣聖ギルバート……は、めんどくさいし、気持ち悪いから団長って呼ぶけど、彼は今と変わらず無口で、人付き合いなんて、もってのほかだ。

どこでどう知り合ったのかは知らない。

けど、アイリスが[剣聖]である彼のことをすごく褒めていたんだよ。」


素敵だとかかっこいいと言われるのは僕だけの特権だと思っていた。

団長が来たのは、初めての大喧嘩をして、仲直りをして、少しずつ元に戻り始めていた頃でもあった。


僕はその喧嘩の時にアイリスへの思いを自覚したんだけど、伝えることはできなかった。

喧嘩の原因が僕のせいだったから。

せめて友人としてもっと距離を縮めよう。

そう思っていた矢先の話だ。


「剣聖ギルバートってすごいね」

「ふーん」

「この前なんて、ダンゴムシみたいな硬い魔獣を木っ端微塵にしてたのよ!?

剣には体液一つ付いてなかったわ!!」

「へぇ…」


僕だってそれくらいって思ったけど、耐えた。

アイリスが楽しそうだったし、僕のくだらない嫉妬のせいで喧嘩になるのは二度とごめんだったからね。


「嫉妬?父さん母さんに何をしたの?

それに喧嘩って…僕聞いてないんだけど?」

「…ザックには秘密」

「何それ、すごく気になるんだけど。

ところでさ、僕思ったんだけど、母さんって剣聖ギルバートがダンゴムシを倒したから凄いって言ってたんじゃないの?」

「え…」

「母さん昔から虫嫌いだし、父さんに憧れたきっかけも薬学で芋虫輪切りにしてくれたからって言ってなかった?」

「…………。」

「父さん?」


…まぁ、それで、面白くなかったんだよ。

団長は期間中、学園で過ごしていた。

訓練では僕達、騎士科に混ざっていたんだけど、称号を持つだけあって力やスピードはもちろん、剣筋も恐ろしく正確だった。

当時の騎士科の生徒達は最初こそ盛り上がっていたけど実際に[剣聖]の剣技を見て憧れより恐れを抱いたんだと思う。

自分達とは何もかもが違うって。


「アイリス、どうしたの?

騎士科まで来て、僕かキースに用事?」

「剣聖ギルバートを見に来たのよ」

「え…」

「あの剣、何度見てもすごいわ

それになんか孤高の存在って感じがしてまるで物語に出てきそうじゃない?素敵!」

「………。」

「セドリック?どうしたの怖い顔して?」

「…もし、僕が奴に勝ったら僕を褒めてくれる?」

「何言って…ちょっと!?セドリック!?」


アイリスが引き止めるのを無視して、僕は団長に初めて模擬戦を挑んだ。

無謀だったとは思ってないよ、確かに団長の剣はすごいけど、当時の学園一位は僕だったし、勝てない試合じゃないと思ったんだ。

それに、「俺は強い」みたいな澄ました顔しているのもムカついてたからね。


「父さん何やってんの」

「好きな女の子にかっこいいところ見せたかったんだよ。でも…」


結果は惨敗。

アイリスの前でカッコつけたくてボロ負け。

あまりにもあっさり剣を弾き飛ばされた。

アイリスは団長じゃなくて僕を見てくれたけど、それは賞賛よりも心配の視線だ。

威勢よく出ていったくせにその結果。

穴があったらもう二度と出てきたくないくらいには、恥ずかしかったし悔しかった。


「いい試合だった。手合わせ感謝する。」


なんて団長も言うものだからさ、僕は何も言えなかったし、差し出された手は振り払った。

僕、大嫌いなんだ。今も昔も団長のことが。

あの澄ました顔も、陰気な雰囲気もね。


団長とは何度も手合わせしてきたけど、一度だって勝てたことはない。

生まれつき称号を持っている人との差はどうしたって埋められないんだ。

[勇者][聖女][剣聖][賢者]

この世界には魔王と戦うために生まれ持った運命、称号を持つ存在がいるのは歴史学で習ったと思うけど、それはいわゆる天が与えたギフトって奴なんだよ。

この世界に生きてる殆どが普通の人間で、それぞれの歩みを経て道が決まる。

商人になって成功するのもしないのも、魔法使いとして名を馳せるのも、剣術大会で優勝するのだって、本人の気質や努力、時には運の力によるものだ。

でも、称号持ちはそうじゃない。

[勇者]は予言の能力と魔を打ち滅ぼせる能力を持ってるし、異常とも言える成長速度で剣も魔法も使いこなす。

[聖女]は魔法とはまた違う癒しの力を生まれつき持っているし、[賢者]には通常の魔法使いの何倍もの魔力がある。

[剣聖]は一度見た剣術をすぐ自分のものにできるとか、元々人間の持つ筋肉量より密度が高いとか、とにかく色々あるんだよ。


そもそも一般的な人間では勝てないんだ。

それでも悔しかった。

勝てないとわかってても、アイリスのことでまで負けるのだけは嫌で。

それから訓練の期間、団長の動きを見続けた。

ささいな癖や、パターンが無いかなんて。

僕なりに自分を見つめ直して出来うる範囲の戦術を考えたりもした。

そしてもう一度挑んだ。

結果はまたも惨敗。


「いい試合だった。手合わせ感謝する。」


もうなんなんだよって思ったさ。

僕が費やした時間も、訓練の大変な日々だってあっさり壊されてしまうんだから。


「セドリック!」

「アイリス、僕は…」

「素敵だったわ!」

「え…」

「最初は貴方が怪我でもしたらってハラハラしてたんだけど…弾かれても、かわされても、別の方法で何度も立ち向かう貴方はすごくかっこよかったわ!

次はどんな手を使うんだろう?って興奮しちゃった!

本当に、凄かった!!」


アイリスは僕を見ててくれた。

それだけで良くなっちゃったんだ。

僕の努力も、考え方も、たくさん褒めてくれて、とりあえず許すことにした。団長のこと。

大嫌いなのは変わらない。

訓練も続ける。

いつかはあの伸び切った鼻をへし折ってやりたいからね。

アイリスが僕を褒めてくれるなら、それでよかったから、団長に言葉を初めて返したんだ。


「こちらこそ、手合わせありがとう」って


団長は一瞬目を見開いて嬉しそうに笑ったよ。

気持ち悪かったけど。


「父さん…」

「嫌いなんだ、団長のこと。」

「それはわかったってば、でも、大人げないというか…」

「そう、ザックの父さんは大人げないんだよ。

子供っぽいし、すぐ嫉妬するし、アイリスやザックが大好きな普通の人間だ。

努力次第で人はいくらでも変わる。

だからザックも周囲に惑わされず自分をしっかり持てばいい。

君は、君なんだから」


僕の言葉を聞いて、何かを考え込むザックの頭をそっと撫でる。

髪質は僕に似たのかふわふわだ。

アイリスに似たならサラサラだったのに。

そんなことを考えながら。


少し前まではもっと小さかったのに、学園に入ってエリオットと出会って一気に成長してしまったんだなって思う。

それが少し寂しい反面嬉しくもあった。

こうして自分の実力について悩むことは悪いことじゃない。


きっとこの様子ならもう大丈夫だろう。

少しして自分の席に戻ったらいつものように明るいザックに戻れるはずだ。


僕はこの後団長に怒られるけど。

恩師にも殴られるけど。

部下にもブツクサ文句言われるだろうな。

でも、こうして息子の成長に触れられるならそれくらい耐えられるはずだ。多分。


「父さん、ありがとう」

「どういたしまして」

「でも…僕はやっぱり父さんみたいになりたい」

「え?」

「僕にとって一番かっこいいのは父さんだから

じゃあ、僕席に戻るね

エリオットにもちゃんと謝る。

父さんも早く仕事に戻ってね」

「…あぁ、頑張ってね」


いつもならアイリスがザックの学園の様子を伝えてくれるけど、今日はアイリスに最高の土産話を持って帰れそうだ。

ザックがとても嬉しいことを言ってくれたよって。


それから、ザックに余計なこと言ったやつが居るだろうからその辺はちょっと内々に処理を済ませなければならないかな。

僕の大切な息子に何してくれるんだよって。






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