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シンフォニア王国物語〜僕の知らない父さんと母さんの話〜  作者: 椿


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20話




「これより、騎士科合同剣術技能大会の開催を宣言する!」


剣術の先生の威勢のいい声に騎士科の男子生徒達の野太い声が反射する。

季節は秋。涼しくなり始めたはずなのに、剣術場を包み込む熱気は最高潮。

前日のギリギリまで訓練が行われていたけどその疲れを物ともしないほどの迫力があった。


「黄色寮今年こそ総合優勝だー!」


僕たちの所属する黄色寮の代表の先輩が声をあげ、僕やエリオットもまたそれに呼応するように腕を振り上げた。


「最初は障害物競争のようだな。

グランドのあちこちに置かれた障害物を越えながらゴールを目指す障害物競走だ。

魔法による仕掛けが施されていることもあるから一筋縄ではいかない。

速さに自信ある者は?」


大会当日になるまで競技の順番や中身は伏せられている。

それは騎士として現場に必要な戦力を即座にそして適切に割り振る先輩方の訓練も含まれていると言う。

これから先には何の競技がどんな順番で控えているのか、所属の寮の生徒たちの実力や適性を見極め、どこで戦力を投下するのか。

それらは経験豊富な先輩の采配によって決められることになっているみたいだ。

僕やエリオット、一年生は空気に飲まれるばかりでただ黙って静かにそこにいる事しかできなかった。


「一年生で一番スピードがあるのはアイザック・グレイシーか……ん?グレイシー…ってまさか…」

「あ…はい。父がセドリック・グレイシーです。」


基本的に普通の授業では先輩達と交流を持つことはあまりない。

そのため僕が二番隊の隊長、セドリック・グレイシーの息子だと知っているのは一緒に授業を受けることのある同級生や先生に限られている。

僕としては、一つの事実でしかないので、素直に伝えたけれど、先輩方にとっては思わぬ暴露だったようで驚きで大声を上げられた。


「セドリック・グレイシーって閃光って呼ばれてる二番隊の隊長だよな!?」

「すげえ!セドリック隊長ってどんな感じなんだ!?」

「アイザックにも何か特技が!?」


あれよあれよと言う間に先輩達に囲まれてしまって、僕は萎縮する事しかできない。

なんて返事をすればいいのかもわからないし、そもそも外で父さんがどんな評価を受けているのか詳しいことは何も知らない。

そんな期待の込められた目で見られたところで僕が知ってるのは家にいる父さんだけだ。

特別なことなんて何もないのに。


「ほらほら!質問のあるやつは後にしろ!

とりあえずアイザック、第一種目いけるか?

それから、三年のスティンキーと六年のヨーゼフも行ってくれ。」

「は、はい…」

「一年生とはいえセドリック隊長のご子息だからな期待しているぞ!」


まだ雰囲気もわからない状態でトップバッターを任されるなんて正直不安だった。

でも一年生の僕に拒否権なんてあるわけもなく、頷くしかできなかった。

叩かれた肩をやけに重く感じたんだ。


「第一種目参加の選手はスタート地点である西の門へと集まってください」


そんな放送に急かされるようにスティンキーと呼ばれた先輩とヨーゼフと呼ばれた先輩と共に西門へと向かった。


「…一種目から障害物はキツイっすよねぇ…」

「まぁ、そう言うな。

トップバッター任せてもらえたんだから出来る限りのことはやろう。

グレイシーも一年生で緊張するだろうが、できる限り頑張ればいい。」

「は…はい」


ヨーゼフ先輩はそう言ったけれどできる限りってどこまでだ?

父さんの息子だから期待してるって言ってたけど、それはどこまでやれば合格点なの?

一年生としてどれくらいできればいいの?

もし平均以下だったらどうなるの?

答えがわからなくて、頭の中がぐるぐるした。


スタート地点に立ってみると横には僕と同じように一年生も数人はいた。

皆不安そうで、僕だけじゃないことに少しだけ安堵したけど、じゃあ一年生で一番になればいいのかって言われたらそれも違う気がして…

最初から負ける気で行くのが正解なわけない。


でも、一種目と言うこともあって基本的には上級生ばかり並んでいる。

体が大きくて、筋肉もたくさんついている。

最高学年の先輩はもう大人顔負けの体型だ。

僕まだ成長期が来てないし、同学年の中でも小さい部類だから、そんな僕を見るや鼻で笑って、応援に来ていた女の子に手を振るような奴だっていた。


悔しいけど、勝てる気はしなかった。

スタートの合図。

まるで最初の一歩からして違っていた。

あっという間に出遅れて、すぐに僕も足を早めた。

まず初めに現れたのは網。

その下をスライディングで滑り込んでそのまま匍匐前進で抜けていく。

これはまだ小さい僕が有利だったけれど、魔法で作られた岩場を越えて、突如魔法で現れた氷の床を滑らないように抜けて、丸太の道を越える。先輩達はとても早かった。

考えるよりも先に一歩前に進まなければあっという間に先輩達に置いて行かれてしまう。


僕はとにかく必死に走った。

父さんみたいにスマートじゃないし、服はあっという間に泥だらけになった。

いろんな障害物もあったし、距離で言えば1キロメートル。

でも、本当にゴールまでがあっという間だった。

必死に走ったけど、結果は八位。

20人の中の八位だ。


「…ゼェ……ゼェ…」

「チッ…」


僕より後ろの順位だった白寮の先輩が舌打ちをしてわざと肩をぶつけて去っていった。

その呼吸は多少乱れているけれどまだまだ余裕そうで、たった一度走っただけで心臓がはち切れそうなほど脈打ってる僕とは全然違っていた。

なんとか荒い息を整えながら黄色の寮に視線を向けて、息を呑んだ。

一瞬だけ皆ががっかりした目でこちらを見ているように見えたから。


「グレイシー、お疲れ、ほら戻るぞ」

「お前早いなー!流石閃光の息子じゃん」


一緒に走っていた先輩二人に背中を押されたけれど、僕はその一言にすごくモヤモヤした。

父さんの息子だからって言葉が嫌味に聞こえたんだ。

八位だ。微妙な順位。

上位三位に入ったわけでもないのに、何を言ってるんだ?って。

僕は頑張った。でも、僕じゃなくてそれは父さんの息子だからできて当たり前ってことなの?

走ってる途中ネットの中で足を掴まれても前に進んだし、岩山では落とされそうにもなった。

でも、転ばなかったし走り切った。

そう、そう思いたい。けど、八位は八位。

納得はできてないけどそれが変えようのない結果だった。

相手は先輩達なんだから負けても仕方ないはずだ。

一年生ではしっかり善戦した。

そんな必死に言い訳するような気持ちで自分の席へと戻るしかなかった。


「ザック!お疲れ!凄かったじゃねぇか!!」


エリオットが真っ先に声をかけてくれた。

それから次いで先輩達も労ってくれる。

でも、どうしてかな。それらを素直に受け取ることができないんだ。

父さんがセドリック隊長だから、僕なら劇的な勝利を収められるとでも思ったかって。

本当は父さんの息子なのに大したことないって思ってるんじゃないのかって。

こんなの、言うべきじゃない。

それだけはわかるから、ただタオルを頭から被って、水筒に入った水を一気に流し込んで余裕もなくて喋れないふりをした。

エリオットにはもしかしたら気づかれていたかもしれないけど。


「次!大岩綱引きだ!エリオットいけるか?」

「うす!」


魔法で用意された大岩を引いて、指定された場所にいかに早く運ぶかのレース。

スピードの次は力を測るらしい。

エリオットは操縦レースでグランドオオトカゲを乗りこなしていたし、先輩方にその力を買われたんだと思う。

実際彼は僕ら一年生の中では一番のタフネスだ。

素直に応援したいのに、素直に期待されて、素直にそれを受け止められるエリオットに僕は声をかけられなかった。

何を言っても惨めになる気がして。


試合はとても盛り上がっていた。僅差で緑寮に勝ち大岩綱引きの優勝は黄色寮だった。

でも周りの先輩達ほど素直に喜べなくて、僕ってすごく嫌な奴なのかもしれない。


「お前一年で力あるなぁ!」

「いえ、先輩達の筋肉のおかげです」

「今度一緒にトレーニングしようぜ!」

「うっす!」


先輩達に囲まれてるエリオットがただただ、眩しかった。


「ザックー!勝ったぜ!」

「…おめでとうエリオット」

「先輩達すげえんだぜ?

筋肉で押しつぶされるかと思った!」

「…そっか」

「ザック?」

「…ううん、なんでもない

それで?岩はやっぱり重たかったの?」

「俺一人の力じゃあんなのビクともしねぇって!!今度二人でもやってみようぜ!」


わかってる。

エリオットに悪気がないことも、僕が何かを気にしてるせいでいつもより声のトーンを上げて話そうとしてくれてるのも。

だから僕は無理やり笑うしかない。

僕にとって一番の友人であるエリオットに劣等感なんて抱いていいわけがないんだから。


それから実際に騎獣を使った騎馬戦や、陣取り合戦、競技はどんどん進んでいった。

午前の競技が終わり、皆が各自持ってきた昼食に舌鼓を打つ間、グラウンドには魔法で特設ステージが作られたんだ。

周囲の生徒達は何が始まるのかと息を呑んで見守っていた。


「注目!!

休憩時間だが、剣聖ギルバートと、皆も知るこの学園の卒業生、現在は二番隊で隊長を務めるセドリックの模擬戦を行う!

貴重な機会だからしかと目に焼き付けるように!!」


先生がそう言った瞬間、会場中にはどよめきが走った。

そして皆の食事をする手が自然と止まってステージへと注目するんだ。

文句一つ出ることなく。


「父さん……」


剣聖ギルバートがステージに上がった瞬間はどこか空気が重かった。

でも、父さんがステージに上がった瞬間、生徒達の空気がガラリと変わるのが肌でわかった。


「ほら、セドリック。

卒業生として生徒達に何かないのか?」

「はは…」


いつも厳しい先生すらもどこか楽しそうに父さんに話しかけている。

それだけ、父さんが人気者ってことなのかもしれない。

母さんが操縦レースの前に話しかけに行けなかったと話していた時の気持ちが今なら少しわかる気がする。

父さんは、なんというか、本当に凄いんだ。


「紹介にあずかりました。

セドリック・グレイシーです。

懐かしいね。僕は技能大会本番よりその前の地獄の訓練の方が印象には残ってるけど。」

「愛の鞭と言え。」

「物騒です。もう二度とやりたくない。」

「セドリック!」


父さんのそんな言葉に会場が笑いに包まれる。

でも、僕は何も笑えない。

ただ、ただ、圧倒されていた。


「さて、皆の食事の時間をこれ以上削ってしまう前に、さっさと模擬戦しようか。」

「セドリックは相変わらず口がうまい」

「ギルバート団長、それ褒めてますか?」

「もちろん。」


一礼。そして剣を構える。

父さんはまるで教科書のような騎士の基本の形を。

剣聖ギルバートはどこか不気味に思えるような不思議な構えを。


「はじめ!!」


先生の掛け声を受け二人は一気にステージ中央へと駆け出した。

刹那…

ガンッて剣のぶつかる鈍い音。

撃ち合いをするたび金属の摩擦で火花が散った。


僕が金属の剣を振ってもカンッとかキンッて軽い音しか聞こえないのに、本当の意味で力が乗ると鈍い音が鳴るんだって初めて知った。

空気が振動するみたいに肌がビリビリする。

コミックみたいに目で追えないとかそんな人外めいてるわけじゃない。

でも、重い金属の剣を上から下、下から上、右に左に縦横無尽に振るう姿はとてつもなくて。

しかもそれを相手の剣をいなしたり、飛び退いたりして、次の一手を予見しながらやるんだ。


どれくらいの時間が経ったんだろう。

やがて剣聖ギルバートの剣が父さんの持つ剣を吹っ飛ばして、父さんは静かに両手を上げた。

剣聖ギルバートの勝利が確定した瞬間だった。


「セドリック!何を負けてるんだ!!」


誰よりも先に声を上げたのはまさかの先生だった。

それから辺りは大歓声に包まれる。

それだけすごい試合だったんだ。

一年生の僕が見ててもすごい技術とか読み合いがあったことがわかるくらいには。


「はは…負けちゃいましたね

さすが僕らの騎士団の団長だ。」

「また腕をあげたか?」

「お世辞は結構ですよ、ギルバート団長。」


握手をして舞台から二人が降りた後も会場の熱が引くことはなかった。

それよりももっと騎士になりたいと願う生徒達が増えたんじゃないだろうか。

それだけ、かっこよかったから。

僕の知ってる父さんじゃないみたいに。






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