晒し者
なに? なんだかカスパル様……怒ってる?
普段から、カスパル様はあまり感情を表に出すことがない人だ。
それは本人の性格がそうさせるのか、そのように育てられたのか私には分からないけれど、とにかく彼は基本的にいつも穏やかに微笑んでいて、怒りなどの感情を表に出すことはほとんどない。なのに今──彼は明らかに気分を害した顔をしている。
どうしてなんだろう?
突然彼が不機嫌になった理由が分からないし、今現在、抱きしめられている理由も分からない。
一体カスパル様はどうしてしまったの……?
頭の中が混乱しすぎて尋ねることもできず、ただただ彼を見つめたまま私が固まっていると、不意に周囲の声が耳に飛び込んできた。
「ねえ、あの二人……大胆ね」
「いくら婚約者といえども、あれはちょっとやりすぎじゃないかしら?」
自分達のことを言われているのだと気づいた瞬間、私は顔を真っ赤にして暴れ出す。
「ちょ、ちょっとカスパル様! 離してください。ここでは人目が……!」
なんとかして彼の腕の中から逃れようとするも、
「人目がなければいいの?」
と耳元で囁かれ、その魅力ある低音の声と耳にかけられた彼の吐息とで、ゾクリとして私の膝は力をなくし、その場に座り込みそうになってしまった。
「おっと、危ない」
そんな私の身体を咄嗟に抱き抱えると、カスパル様は颯爽と歩き出す。
「なにあれ!? 王子様みたい!」
「私もあんな風にされてみたい!」
周囲から令嬢達の羨ましげな声が飛ぶも、私はそれに得意げな顔を返すのではなく、あまりの恥ずかしさに顔を隠した。
恥ずかしいから離して欲しいって言いたかっただけなのに、どうして余計に恥ずかしいことになってるの……っ!?
しかも、カスパル様はそのまま学園内の馬車留めへ向かって歩いていくものだから、完全に晒し者状態だ。
今は帰宅時間ということもあり、同じように馬車留めへ向かって歩いていた生徒達が私達の姿を見て、口々に囃し立ててくる。
「ヒューヒュー、熱いなっ」
「あんなことして、よく恥ずかしくないな……」
「実は羨ましいくせにぃ」
恥ずかしすぎて、顔を上げられない。できれば耳を塞いでしまいたいけれど、両手を耳へ持っていけば顔を隠せなくなってしまうから、私は必死に聞こえないふりをした。
「カスパル様、私、自分で歩けますので……」
段々恥ずかしさに耐えきれなくなり、小声で懇願してみると、
「今、降ろされた方が、よっぽど恥ずかしい思いをすると思うが……いいのか?」
と問われ、少し考えた後、結局無言で首を横に振った。
私とカスパル様の婚約は三ヶ月前に正式に発表され周囲に認知されているため、表立って仲睦まじくしていても、何も問題はないけれど。
正式な婚約者になった途端、カスパル様の私に対する糖度が上がり、元婚約者となったザガロとの差に、私はまだついていけていなかった──。




