ザガロの処遇
ノスタリス子爵が何を言わんとしているか──皆まで言われずとも、メラニン侯爵はそれが痛いぐらいによく分かった。
つまり子爵は、ザガロが幼い頃から自分の権力を盾にして嫌なことから逃げてきたせいで、貴族として最低限身につけていなければならない常識さえも理解していないと言いたかったのだ。しかもそれは、母親を亡くしたザガロを甘やかすばかりで、彼の教育を教師陣に任せきりにした侯爵自身に問題があると遠回しに告げていた。
故に今回の罰はザガロ一人に負わせるものではなく、約束を守れないような息子に育ててしまった侯爵自身にも負わせる形で話し合いがなされたのだ。
「ザガロ君がジェニー嬢に対して行った蛮行については……教育が足りなかったせいとは言えぬかもしれんがな」
と言い置いて。
全ては──優しくするばかりでザガロに厳しく接してこなかった侯爵自身が招いたことでもある。
そう考えればザガロは被害者と言えなくもないが、貴族としての勉強から逃げる・逃げないは本人の意思で選択されたことでもあったため、その分の責とジェニーに対する償いは、どうあっても本人にさせる必要があった。
「ザガロ……お前は今日からクロニエ男爵家で、ボーイとして住み込みで働け」
未だ呑気な顔をしている自分の息子に、静かな声でそう告げた途端、ザガロの目が大きく見開かれた。
次いで、訳が分からないというように大きく頭を横に振り、「今、なんと?」と聞き返してくる。
侯爵家の令息が男爵家でボーイとして働くなど信じられないのは理解できるが、これはもう決定事項だ。今更取り消すことはできない。
それに何より、ミディアの婚約者という身分を盾にして詐欺行為のようなものまで行っていたのだから、その際に支払われた金銭を返すことは、人として当然のことだった。
だが恐らく、今まで甘やかされてきた息子は、そんな当たり前のことすら理解できないに違いない。
これまで息子を甘やかしてきたツケを、こんな形で息子自身にも払わせねばならないことに胸を痛めながらも、侯爵は心を鬼にして言葉を続けた。
「お前をただ屋敷から追い出したところで、のたれ死ぬだけだろう。それにお前には、ノスタリス子爵家に作った借金を、お前自身の稼ぎで返さねばならないという責務がある。無理やり鉱山に送ったところで働けるとは思えぬし、だったら厳しい監視のもと、男爵家でボーイとして働いてはどうか? という有難い話をいただいたのだ。男娼として娼館に売られるより、よほど良い話だろうが」
正直に言えば、息子の見た目で娼館に買い上げられるとは思えなかった。いくら父親という贔屓目で見ても、ザガロの容姿は優れているとは言いにくい。
だからそこには敢えて触れず、侯爵は厳しい眼差しでザガロのことを見つめた。
「それでもお前が鉱山や娼館に行きたいと言うのなら、わしは止めるつもりはない。だが、違うと言うなら……おとなしくクロニエ男爵家へ行け」
まさかこんな台詞を息子に言う日が来るとは思ってもいなかった。
メラニン侯爵家を立て直そうと必死に頑張っていたのは、自分のためなどではない。
ここまで家を存続させてくれた先祖のため、領民のため、そして愛する息子のため──没落の心配などなく、安心して暮らしていける状態でザガロに継がせてやるためだったのだ。
だがその気持ちを裏切ったのは、他ならぬザガロ自身。
だからこそ侯爵は、婚約破棄の責任をザガロ自身にも負わせることに決めたのだった。




