何も理解していない
優しかった父親が、突然別人になってしまったかのようで、ザガロはただただ父親を見つめ続けていた。
今までは僕が何をしでかしても、大して怒られることなどなかったのに、どうして今回だけ……。
そんなにもジェニーに手を出したことがいけなかったのか? どうせ未遂に終わったんだから、そこまで目くじら立てなくてもいいじゃないか。
そんな風に考えてしまうザガロは、どこまでも他人の気持ちを理解していない。
“悪いことをした”という自覚はあるものの、未遂に終わった以上問題ではなく、そもそもジェニーの自分に対する態度がすべての元凶だと思い込んでいる。
だからこそ自分の父親が、まるで人が変わったように怒っている理由が分からなかった。
「父上、僕は──」
「ザガロお前、わしの話を聞いていなかったのか?」
「え……?」
またも言葉を遮られた。
どうして父上は、僕に喋らせてくれないんだろう? 僕に好きに喋らせてくれさえすれば、ジェニーとのことは誤解だって説明できるのに。
そんな鬱憤を抱えるも、反抗したところで良いことなど一つもないと理解しているから、ザガロは渋々といった体で父親の問いに答える。
「父上の話なら、ちゃんと聞いていましたが……」
しかしそれを聞いた侯爵は、心底不思議そうに首を傾げた。
「おかしいな。わしの話をきちんと聞いていたのなら、『ノスタリス子爵家からの支援がなくなると面倒』などという言葉は、お前の口から出ないはずなのだが……」
「それは一体どういうことですか?」
全くもって意味が分からない。
自分はあの時、これ以上父親の機嫌を損ねないよう、差し障りのない言葉を選んで話したはずだ。なのにそれがおかしいだなんて。
「心当たりなし……か。では、表面上はわしの話を聞いていたものの、真の意味で理解はしていなかった……ということなのだろうな」
呆れたように肩で息を吐かれ、それを見た途端、ザガロの中でどうしようもない怒りが込み上げた。
そしてつい、感情のまま声を荒げてしまう。
「僕はちゃんと父上の話を聞いていました! なのにどうして──」
「お前には屋敷から出ていってもらうと言ったはずだぞ」
荒げていたザガロの声より、侯爵の声は格段に小さかった。
だが、不思議とその声は、ザガロの耳に突き刺さるかのようにハッキリと聞こえた。
「屋敷を追い出された後のお前に、ノスタリス家の支援の話などなんの関係もないと思うが……違うか?」
違わない──。
侯爵家から追い出されれば、確かに支援などなんの関係もなくなる。
だけど自分は──。
「百歩譲って廃嫡は認められても、屋敷から追い出されるのだけは嫌です! ジェニーのことなら既に謝ったし、反省もしたじゃないですか! 血の繋がらない娘を屋敷に残して血の繋がった僕を追い出したなんて話が社交界に広まったら、父上はいい笑いものの種になりますよ!」
「だからどうした」
「だからどうしたって……」




