別人になった侯爵
「あ、ええと……支援の話が打ち切られたとか?」
「それだけなら、まだいい」
ということは、支援自体は打ち切られてしまったのか。
最近になって、ようやく少しずつ豪勢になってきた侯爵家の食事内容を思い出し、ザガロは内心で舌打ちする。
学園に入学してからミディアの邸に行く回数が減っていたのは、わざわざあちらに行かずとも満足のいく食事が侯爵家でも食べられるようになったからだった。だというのに、またそれが元に戻ってしまうとは。
「面倒だな……」
また、夕食を食べるためだけに、ミディアの邸へと通うのは──。
そう思い、呟いたザガロだったが。その言葉を聞き咎めた侯爵は、眉間に皺を寄せた。
「……ザガロ、一体何が面倒なんだ?」
やばい、聞かれた!?
小さな呟きが父の耳に入るとは思ってもおらず、ぎくりとしたザガロは慌てて首を横に振る。
「い、いえ、僕は、何も……」
言っていない──とは言えない。確かに自分は厄介な一言を漏らしてしまったのだから。
しかし、だからといって素直に認めるわけにもいかない。
どうしようかと視線を彷徨わせていると、低く圧力のある声が、父の口から放たれた。
「話せ」
たった三文字の、とても短い言葉。
だがそれだけで、ザガロを震え上がらせるには十分だった。
これを拒否したら、今すぐにでも屋敷から追い出されてしまうかもしれない──。
そう思わずにはいられないような、迫力のある、有無を言わさない声と視線。
ザガロはこれまで、父である侯爵のこのように恐ろしい姿を一度も目にしたことがなかった。だからこそ、信じられない。
この人は本当に、今まで一緒に暮らしてきた、僕の父上なんだよな……?
つい先ほど感じた疑問が不意に大きくなり、思わずそれを口に出す。
「あの、父上、いきなりどうし──」
瞬間、ダン!──と大きな音を立てて、侯爵が拳を執務机に叩きつけた。
「ひっ……」
それに驚いたザガロは、反射的に頭を庇って言葉を途切れさせる。
「ち、父上……?」
「余計なことはいい。お前はわしの質問にのみ答えろ」
容赦など一切ない。厳しい父親の態度に、さすがのザガロも“このままではヤバいかもしれない”と思い始めた。
だが、まだだ。まだ追い出されたわけではない。諦めるのは早すぎる。
「僕が面倒だと言ったのは、支援がなくなることで我が家の暮らしが以前のように苦しくなるなら、最近慣れてきた色々なことが面倒になるなって……思っただけで……」
話しているうちに、父親の顔がどんどん険しくなっていき、そのせいで最後の方は、しどろもどろになってしまった。
なぜ、父はこんなにも恐ろしい顔で自分を見つめてくるのだろう。
なぜ、他のことは何も話させてはくれないのか。
自分達の間にあった親子の情は、一体どこへいってしまったんだ?




