暗い瞳
廃嫡? 屋敷から追い出す? 冗談だろう? 廃嫡はともかく、屋敷から追い出されたら生きて行けなくなってしまう。
父である侯爵の口から紡がれた言葉に、ザガロはダラダラと冷や汗を垂らす。
何とかして父上に考え直してもらわなければ。僕の輝かしい未来が、こんな些細なことで閉ざされるなど真っ平だ。
だが、どうすればいい? どうしたら父上は僕のことを許してくれる?
許される可能性など万に一つもありはしないのに、ザガロはそんなことには気付きもせずに、考え続けていた。
だからこそ、表面上は反省したような顔をして、深々と頭を下げる。もう二度と、絶対しません──という気持ちを、全身で表しているぞ……と言いたげに。
「父上、先ほど僕がジェニーにしてしまったことは、心の底から謝罪します。父上に叱られて落ち込んでいたところにタイミング良く彼女が現れ、ついカッとなってあのような凶行に及んでしまいました。ですが、二度としないと約束します。これからは兄妹として正しい距離を保ち、二度とジェニーに不埒な真似はしないと約束しますので、どうか今の言葉を取り消してはもらえないでしょうか」
必死になって懇願する。
父親は基本、自分に対して甘い。だからこそ、こうして謝罪すれば大丈夫だという打算がザガロの中にはあった。
ジェニーを躾けようとしていたところを見つかったのは予想外だったが、まだ巻き返せるはずだ。暫くはおとなしくして、ジェニーにも紳士的に接して信頼を回復していけば、元の状態に戻れるはずだと。
しかし──。
「約束……か。今まで散々約束を破ってきたお前の口から、まさかそんな言葉が出るとはな……」
父親の口から発せられた声は、氷のように冷たかった。
「ち、父上……?」
一体どうしたんだ?
父の様子が、何かおかしい。
帰宅して殴られた時もそうだったが、父はいつでも自分に愛情を持って接してくれていた。なのに今、目の前にいる父は、何かが違う。
別人というわけじゃない。自分の父親だということに間違いはない。だが、どこか違う。
それはどこだ──。
瞬間、父親の暗い瞳と目が合い、ザガロはびくりと身を竦ませた。
「ザガロ……お前がミディア嬢とのデートの約束を破り続け、ノスタリス子爵との約束をも踏み躙り、その代償にと求められていた金銭の支払い……もしくは婚約破棄から逃げ続けていたせいで、我が家はどうなったと思う?」
「え……」
一語一句ゆっくりと、一言も聞き漏らすことがないよう、ハッキリとした声で聞かれた問い。
「そんなもの……」
僕が知るわけがない──と言いかけて、ザガロはその場に凍りついた。
自分に問いかけてくる父の瞳があまりにも暗く恐ろしくて、下手な答えを返した瞬間にでも、殺されるかと思ったからだ。




