当主として
自分の息子であるザガロの部屋へと向かい、脇目も振らず一直線に歩いて行くメラニン侯爵。
息子の部屋が近づくにつれ、何かを叩いているかのような、どこかが軋んでいるかのような妙な音が、少しずつ大きくなっていく。
やはり間違いない。あの音の出処はザガロの部屋だ──。
確信を深め、侯爵は強く唇を噛み締める。
あれほど怒ったというのに、あの馬鹿はまた何をやっているのか。しかも今は子爵夫妻が屋敷にやってきている。たとえノスタリス家との婚約がなくなったとはいえ、支援だけは続けてもらうよう話をつけなければならないのに。
「大人しく謹慎していることすらできんのか……」
侯爵の口から、低く怒りのこもった声が漏れる。
次いで、ザガロの部屋の前に立った侯爵は、躊躇うことなく一気にドアを引き開けた。
「…………っ!!」
瞬間、目に飛び込んできた光景に愕然とし、言葉を失う。
そこには──ベッドの上でジェニーに馬乗りになったザガロと、彼に押さえつけられながらも必死に足をバタつかせて抵抗するジェニーの姿があった。
「………………」
目の前の光景が衝撃的すぎて、メラニン侯爵の頭の中が真っ白になる。
これはなんだ? ザガロとジェニーは何をしている? 一体どういうことなんだ?
視覚から入る情報に脳の処理が追いつかず、侯爵はその場に呆然と立ち尽くし、ただ目の前の出来事を見つめるだけに留まってしまう。その間にもジェニーの抵抗はどんどん弱まり、彼女の立てていた音が小さくなっていくのだが、それでも侯爵は微動だにしない。
階下まで聞こえてきた音は、もしやジェニーが抵抗して暴れている音だったのか?
だが、二人は義兄妹だろう? こんなことは許されないはず……。
そんなあさってのことを考えるのみで──。
やがて、親である侯爵に一部始終を目撃されているということに気づいていないザガロが、ジェニーのスカートの中に手を入れようとした時だった。
「……この、下衆が!!」
突如として聞こえた怒鳴り声とともに、侯爵のすぐ隣を風が吹き抜け、ザガロがジェニーから引っぺがされた。刹那、彼の身体が吹っ飛び、したたかに壁へと打ち付けられる。
「うっ……!」
ザガロがその場に崩れ落ちるのと、侯爵夫人が悲鳴をあげて室内に走り込んでくるのとが同時だった。
「ジェニー!!」
その声にようやく侯爵は正気を取り戻し、妻の後に続いてジェニーへと近づく。
彼女はザガロによって乱された服を整える気力もなく、突然襲われた恐怖と抵抗し続けた疲労感とで、青くなってグッタリとしていた。
「ジェニー! ああ……ジェニー、可哀想に……」
娘の身体をシーツで包み、慰めるように抱きしめながら、侯爵夫人は涙を流す。
ショックで言葉が出ないのか、単に疲労によって喋れないだけなのか、黙ってされるがままになっているジェニーの身体は、小刻みに震えていた。
「ジェニー……」
そんな彼女の様子に、侯爵の胸が痛む。
たとえ自分と血の繋がった娘ではなくとも、親子として過ごした時間が短かろうとも、彼女に対して情を持っていたし、実の娘と思い慈しんできた。それがまさか──自分の実の息子によって穢されかけてしまうとは……。
完全に育て方を間違えた──。
どうにもならない後悔が、侯爵を襲う。
今更悔やんだところでどうにもならないが、しかし。
屋敷の中で問題が起きてしまった以上、当主として解決せねばならなかった。




