おぞましい口づけ
その日ジェニーがザガロの部屋を訪れたのは、ミディアのことについて話し合うためだった。
普段であれば、自分一人でザガロの部屋を訪ねるなんて危険な真似は絶対にしない。けれど、ミディアに対して後ろめたい気持ちがあるジェニーは、これからする自分達の会話を使用人の耳に入れるわけにはいかず、だからこそ仕方なく今のタイミングでザガロの部屋を訪れたのだ。
カフェでの請求はもちろんだが、ここ最近ツケ払いができなくなっていること。
それから、これが一番大事なことなのだが、侯爵に言われた“詐欺”についての話──。
自分は詐欺だ何だというつもりではなく、単にザガロに教えてもらった通りにしていただけなのに、それがどうして詐欺などと言われ、怒られなければならないのか。店の人達が勝手にジェニーとミディアを間違え、自分のサイン──確かに“ミディア”と書きはしたが──でツケ払いを了承してくれただけなのに。
ジェニーはそんな人達の親切にあやかって、好き勝手に買い物を楽しんでいただけだ。
その辺りのことをザガロから侯爵にきっちり説明してもらい、誤解を解いてもらわなければならない。
今回の件について悪いのは自分ではなく、自分のことをミディアだと思い込んで買い物をさせた店側に責任があると。だから自分を怒るのは間違いで、店側に文句を言うべきだと伝えてもらう。
それが終われば、あとは──ミディアとザガロの婚約についてだ。
屋敷内ではもちろん、学園内でもミディアよりジェニーと一緒にいたがるザガロは、今や完全にミディアから距離を置かれてしまっている。たまに二人で話しているかと思えば、やれ宝飾品の代金を払えだの、それが無理なら婚約破棄しろだの、そんな物騒な話ばかりで。
せっかくミディアのようなお金持ちの令嬢と婚約を結べたのに、ザガロはどうしてその婚約を破棄されるようなことばかりをしているのか。
ザガロがミディアより自分の方に気があることは分かっているけれど、自分達は義兄妹だから結婚はできない──というか、したくない──し、とりあえずミディアと結婚だけでもしてしまえば、侯爵家の生活は安定するのに。
そういったことをザガロと話し合うため、ジェニーは使用人の目を盗んでザガロの部屋を訪ねたわけなのだが──。
詐欺事件のことを口にした瞬間、ザガロの顔色が目に見えて変わった。
「なるほど、そうか……。お前が一人で高級菓子を買えたのは、ミディアを装ってツケ払いで購入していたからだったんだな?」
「知ってたんじゃないの?」
初めて知った──と言わんばかりのザガロの反応に、ジェニーは戸惑う。
部屋のゴミ箱に捨てた高級菓子の話を彼からされた時に、そのことは既にバレていると思っていたが、どうやら違ったらしい。
だったら言わなければ良かったかもしれないとジェニーが後悔しかけた時──ザガロにいきなり両手首を掴まれ、頭の上で固定されてしまった。
「ちょっと! 何す──んんっ!」
大声を上げようとした口はザガロの唇によって乱暴に塞がれ、ジェニーは必死になって抵抗しようとするも、強い力で顎を掴まれてどうにもできない。
いや、気持ち悪い。いや、いや! なんで私がこんな不細工な男と……!
ぬるりとした分厚い舌が、口の中に入り込んでくる。刹那、その気持ち悪さに鳥肌が立ち、ジェニーはベッドの上で足を大きくバタつかせた。




