驚愕と屈辱
「学園に入学するまでは、僕が何をしても大人しく言うことを聞いていたのにな……」
いや、正しくは学園に入学するほんの少し前までか。
ベッドに寝転がりながら足を組み、片足をぶらつかせながらザガロは呟く。
あの日、高級宝飾品店でミディアにアクセサリーの支払いをさせようとした時──それまでは一度だって自分の命令に背いたことのなかったミディアが、初めて拒否の言葉を口にした。しかも、ジェニーと揃いで作った物だと自分が一言も口にしなかったのにも拘わらず、それを見抜いて明確に拒否したのだ。
あの時の驚愕と屈辱はいまだに忘れられない。
宝飾品の支払いをさせるためだけに連れてきた女に支払いを拒否された挙句、その場に置いて行かれ、困惑する店員の目から逃れるようにして、ザガロは急ぎ足で退店した。
その後ノスタリス子爵家に向かい子爵から小切手を貰ったものの、その額があまりにも高額であったため、使用人に受け取りを任せるわけにはいかず。悩んだ末、結局ジェニーを連れ、二人で宝飾品を受け取りに行った。
店で渡された宝飾品をすぐに身につけ、大鏡の前で喜んでいたジェニーは気づかなかっただろう。だが、その時いた店員達の冷ややかな視線を、ザガロは忘れることができない。
「ミディアがもっと従順だったら、僕があんな思いをすることもなかったのに……」
ザガロの中では既に『ミディアの金は僕の金』という考えができてしまっているため、彼女のお金で自由に買い物することは婚約者として当然の権利だと思っている。
だからこそ“ノスタリス子爵令嬢の婚約者”という立場を使い、なんの罪悪感も抱くことなく好き勝手に買い物をしていたのだ。
しかし、ザガロの顔もミディアの顔も知らない人間が営む店では流石にそうもいかず、ツケ払いをする際に本人直筆のサインを求められたため、考えた末にジェニーを“気晴らしのための散歩”という名目で家から連れ出し、彼女に適当にサインさせて買い物を続けていた。
それでずっと上手くいっていたのに──。
学園に入った頃から、何もかもがうまくいかなくなった。
といっても、最初から全てがうまくいかなかったわけではない。ジェニーと揃いのアクセサリーを着けて登校し、周囲から羨望の眼差しを向けられていた頃は、何も問題などなかった。
令息達は美しい義妹と金持ちの婚約者を持つ自分を羨ましがって、しきりに囃し立てていたし、令嬢達はノスタリス子爵令嬢の婚約者になれた幸運な男性はどんな方なのだろう? と興味深げに自分のことを観察していた。
学園のみんなに注目され、ザガロは一躍有名人になった。この分ならミディアと同等──若しくはそれ以上に可愛い令嬢と婚約を結び直すこともできるかもしれないという希望まで抱き、周囲の令嬢達へと意識を向け始めた。
そんな矢先──。




