熱烈な求婚
私の仕草を見て、クロニエ様がなぜか片手で顔を覆い、上を向く。
彼は小声で「くっ……あざとい……」と言って固まっているけれど、私にはその理由が分からない。
あざといという言葉は、ジェニーさんのような人にこそ使うべき言葉のはずだ。なのにどうして彼はそんなことを呟いているのか。
不思議に思いながら見つめていると、クロニエ様はそのままの体勢で大きく息を吐いた後、ゆっくりと顔から手を離した。
そうしてソファから立ち上がり、私の傍へきて膝をつく。
「ほんと……君には敵わないな。プロポーズをもう一度最初からし直すのは恥ずかしいし、流石の僕も一言一句全てを正確に記憶しているわけじゃないから、ところどころ間違っているかもしれないが……。それでもプロポーズした事実だけしか覚えられていないというのは悲しいし、疑われるのは嫌だから、もう一度大切なことだけを言うよ」
今度こそ、忘れずに覚えておいてほしい──と言い置いて、彼は真摯な瞳で私のことを見つめると、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「ミディア嬢、君が俺の愛を買ってくれるなら、俺はこれからの将来、全身全霊、誠心誠意、俺の全てを君一人に捧げると誓う。決してよそ見などしないし、浮気などもってのほか。俺は君だけがいてくれればいいし、君以外は誰もいらない。だからどうか、俺の愛をお金で買ってはくれないか?」
とても熱烈な──熱烈すぎるプロポーズ。
クロニエ様のように素敵な人にこんなことを言われて、断る人なんているのだろうか?
いや、いない。いるわけがない。
彼のような人に一生涯一途に愛される人生なんて、願って手に入れられるものではないのだから。
けれどだからこそ、私の頭に疑問が浮かぶ。どうして彼が、そこまで私に拘りを持つのかということに。
「あなたの気持ちは分かったわ。でもまだ分からないことがあるの。確かに私は資産家の娘だけれど、他にも同じような立場の令嬢はいるはずでしょ? なのにどうしてクロニエ様は、私に求婚してくれたの?」
実のところ、それが一番私の聞きたかったことだった。
クロニエ様と同年齢の資産家の令嬢は私しかいなくても、近い年齢の令嬢なら他にもいる。
それこそ相手を貴族に絞らなければ、大店の娘であるとか、候補として考えられる女性は何人もいるだろう。
婚約は早い段階からしておかないと──特に男性は──相手がいなくなってしまうため、クロニエ様が焦る気持ちも分からないでもない。けれど、出会ったその日に求婚するなんて、普通だったら考えられないことだ。たとえ父がそのために彼を邸に呼びつけていたのだとしても、断るのが当たり前だろう。
それなのに彼は父の要望通りに我が家を訪れ、私に求婚した。しかも、『愛をお金で買ってくれ』などという斬新な方法で。
あれは父に言われたことなのか、それとも彼が自分で考え出したことであったのか、私には判断がつかないけれど。
少なくとも、ほぼ初対面同然の相手にプロポーズをするなんて、まともな考えではできないような気がした。




