忘れられた言葉
「まず最初に、あなたは私に愛を買ってほしいと言ったけれど、もしもこの先私より遥かに高額なお金を出してあなたの愛を買いたいという人が現れたら、どうしますか?」
この問いは、クロニエ様にプロポーズされてからというもの、ずっと私の心の中にあったものだ。
彼が私と結婚する目的がノスタリス家の資産だと言うのなら、我が家より資産家の家は少なからず存在するため、決して他に可能性がないわけじゃない。
クロニエ様の見た目、頭脳、性格──そういったものを総合して考えれば、たとえ彼の爵位が低かろうとも、それを無視して手に入れたいと考える人はいるだろう。そうなった時に、クロニエ様の気持ちはお金によって決まるものなのかどうなのか、その辺りのことを聞いておきたいと以前から思っていた。
愛をお金で売るというなら、より多くのお金を払う相手に売り渡す方が現実的だ。となれば、彼が私にこだわる必要はない。
ここで彼が答えを悩んだり、より良い条件が提示されたら乗り換える──などということを口にしようものなら、その瞬間にでも私達の関係は白紙に戻そう。いくらクロニエ様が素敵な男性とはいえ、お金によって左右されるような不安定な関係の人と、夫婦としてやっていけるはずなどないのだから。それぐらいなら、誠実そうな男性を適当に選んで結婚した方がよっぽどマシだ。
先ほどとは違い、今度は私が答えを待つ番になり、じっとクロニエ様を見つめる。
すると、彼は少しだけ困ったように自分の頬を軽く掻いた。
「え~……それってつまり、俺の渾身のプロポーズの内容が、ちゃんと記憶してもらえてないってことだよな?」
言葉遣いがあっさり普段と同じものになり、彼の両肩から力が抜ける。
「そりゃまあ、あの時は? 馬鹿がギャーギャー喚いた後だったし、気もそぞろになってて仕方ないって分かってはいるけどさ。それでも俺としては、一世一代の告白だったわけで……それを覚えてない……と。君はそう言ってるわけだよな?」
確認するように問われ、私は狼狽えながらも小さく頷く。
クロニエ様にプロポーズされたことは覚えているけれど、その時になんて言われたのかまでは流石に覚えていなくて、謝罪をしつつ私はそっと彼の顔色を窺った。
「ご、ごめんなさい。正直なところ、なんて言われたのかはっきりとは覚えていなくて……あの時はただ、あなたにそんな気持ちがあったなんて……ってことだけで頭がいっぱいになってしまったから……」
初めて出会ってから、ほとんど時間も経っていない相手にいきなり求婚されたのだ。そんな状況であれば誰だって、言われた言葉の内容まで覚えてなんていられないだろう。
とはいえ、彼が一生懸命考えた──らしい──言葉で、プロポーズしてくれたことは事実。
「今更こんなこと言うのは申し訳ないんだけど、できればもう一度、あの時の言葉を聞かせてくれない?」
そうしたら、新たに分かることがあるかもしれない。
クロニエ様の言葉から、そんなことを感じた私は、両手を合わせて拝むように彼を見上げた。




