貴族として
応接室内を、静寂が支配する。
クロニエ様の視線はまっすぐ私を捉えたまま、微動だにしない。
急かさず、焦らせず、脅しをかけず──彼は冷静に私の返事を待ってくれているようだ。
ザガロだったら、間違いなくこうはいかないだろう。ジェニーさんも同じだけれど、あの二人は人の話を全く聞かず、自分達の言いたいことのみを言い、したいことのみをする人達だから。
実際に血の繋がりはないはずなのに、どうしてあんなに素の部分が似ているのだろう。
実はジェニーさんもメラニン侯爵と血が繋がっているとか? いやいや、まさかね……。
性格はそっくりでも、見た目は全然似ていないし……もしかしたら侯爵家に引き取られたことで、ジェニーさんの性格が変わってしまったのかもしれない。
なんてことをつい私が考えてしまっていると、待ちきれなくなったらしいクロニエ様が、再び声をかけてきた。
「ミディア嬢、気持ちはまだ決まらない? 俺では君の伴侶として力不足か?」
「そ、そんなわけないじゃない!」
悲しげな表情をした彼を見て、私は思わず立ち上がって否定の声を上げてしまう。
言ってしまってから『しまった』と思ったけれど、もう遅い。
「そうか。だったら俺は、とりあえずミディア嬢の婚約者候補としては合格ってことなんだな?」
いきなり態度の大きくなったクロニエ様が、長い足を組み、膝の上に肘をついた姿勢でニヤリと笑う。
そんな悪そうな顔もカッコいい! と私は内心で悶えてしまったけれど、そこは貴族令嬢の矜持で抑え込み、表面上は無表情を装った。
正式に婚約を受け入れる前に──まだクロニエ様に確認しておかなければならないことがある。
それらのことをきちんとしておかなければ、いかに彼が他に類を見ない優良物件であったとしても、易々と婚約を結ぶわけにはいかない。ザガロの時のような失敗は、もう二度としたくないから──。
そのため私は、一度目を閉じて大きく深呼吸すると、ゆっくりと目を開いてクロニエ様の瞳を見返した。
姿勢を正し、彼としっかりと視線を合わせてから、おもむろに口を開く。
「もし私とザガロの婚約破棄がうまくいったとして、その後クロニエ様と婚約するにあたり、事前にいくつか確認しておきたいことがあります」
「うん。……いや、はい。遠慮せず、なんでも聞いてくれ」
私が急に真面目な顔をしたからか、クロニエ様も組んでいた足を外し、貴族令息らしい話し方へと切り替えてくる。
私と彼は、ここ最近親しくなってから、実家が男爵家と子爵家でお互い堅苦しい言葉遣いが苦手だったこともあり、まるで平民のような言葉遣いで会話をしてきた。
両親がいる時は流石に貴族らしい言葉遣いをするものの、二人だけの時は砕けた言葉遣いしかしていなかった。
けれど今──将来を見据えた真剣な話をするにあたり、私達は互いに“貴族”として相対した。




