大当たり
「ところでさ……君とメラニン侯爵令息との婚約破棄が、そろそろ現実のものになりそうだって話を聞いたんだけど、本当?」
「えっ……それは……」
いきなりの急展開についていけず、私は言葉を詰まらせる。
確かに今、両親がその話をしにメラニン侯爵家へと行っているはずだけれど、どうしてそのことをクロニエ様が知っているのだろう。
もしかしたら彼を呼ぶときに、母がそのことを一緒に手紙にしたためたのか、それとも──。
考えても分からず、私はつい疑うような瞳でクロニエ様を見つめてしまう。
「どうしてクロニエ様はそのことを……?」
もしどこからか情報が漏れているのだとしたら、対策を考えなければならない。何故なら私達の婚約は、まだ破棄されていないのだ。いずれ確実に破棄するつもりだとはいえ、手続きを終わらせるまでは外部に話を漏らすべきではない。
何故かというと、平民であればさして問題にもならないようなことを、貴族は面白おかしく噂するのが好きだから。いつでもどこでも、どこかの家の足を引っ張ろうと身構えていて、蹴落とすことに全神経を傾けている。
そんな風に以前母から聞いていたから、もし私とザガロの話が漏れていたとしたらどうしようかと考えていると、クロニエ様が心底不思議そうな顔で私にこう問い返してきた。
「君さ、この前学園で俺に『ザガロと婚約破棄する』って言ったよな? それで今日、君の両親がメラニン侯爵家に連れ立っていくのに、君を一人で家に置いていくのは忍びないからって理由で俺はここに呼び出された訳なんだけど。となれば当然、用件は婚約破棄についてだと思うのは当然だろう? 俺の考え間違ってる?」
「……間違ってない、と思います」
正論すぎて、ぐうの音も出ない。
そういえばつい最近、彼に婚約破棄を実行するという話をしたばかりだった。
それに加えて両親がメラニン侯爵家へ行くとなれば、考えなくても分かることだったのに。
クロニエ様を疑ってしまった自分が恥ずかしくなり、俯いて両手で顔を覆う。すると、楽しげな彼の笑い声が耳に入った。
「あっはは。普段は俺に敬語なんて使わないのに、なぜか敬語になってるし。ミディア嬢は頭が良さそうに見えて、意外と抜けたところがあるよな」
まあ、それが可愛いところでもあるんだけど。
と言って、彼は意味深に微笑んでくる。
“可愛い”なんて言われ慣れていないことを言われ、どうしていいか分からなくなってしまった私は、パクパクと口を動かすことしかできなかった。
「……で、ミディア嬢の心は決まった?」
クロニエ様の顔が急に真剣なものへと変わり、その視線が真っ直ぐに私へと向けられる。
おそらく彼は、ザガロと婚約破棄した後、私に自分と婚約する気があるかどうかを聞きたいのだろう。
そのためにプロポーズ紛いのことをしたり、ちょくちょく我が家にやってきては父との関係を深めたりしてきたのだろうから。
ここで私が首を横に振れば、彼の今までの努力は水の泡になってしまう。けれど反対に、私が首を縦に振れば、彼の努力は最大限に報われる形となるのだ。
父はともかく、いまいち内心の分からなかった母も、今日クロニエ様に手紙を出して邸に呼び出したことから、《《そういった目》》で彼のことを見ているということが窺えた。両親が共にクロニエ様を認めているというならば、私が拒否する理由はない。
実のところ私だって、出会ってから今まで──最近は特に──彼に色々と助けられたため、頼りがいのある人として彼を見始めている。
こんな風に頭も良くて頼りがいがあって、しかも見た目までかっこいいなんて人、断ったら絶対に後悔するし、二度と巡り会うことはないだろう。
ただでさえ婚約破棄した後の令嬢なんて碌な嫁ぎ先が見つからないというのに、まさかこんな大当たりが自分に舞い込んでくるなんて。




