来訪者
部屋に戻り、侯爵家でのことが気になりながらも、私が課題に手をつけようとした時だった。
突然部屋のドアがノックされ、使用人からクロニエ様の来訪が告げられたのは──。
「お嬢様、クロニエ男爵令息様がいらっしゃいました。奥様からクロニエ様がいらしたら邸内に招き入れるよう仰せつかっておりましたので、応接室にてお待ちいただいております」
「え?」
お母様に言われたって……私は何も聞いてないんですけど?
使用人の言葉に驚き、咄嗟に言い返しそうになるも、使用人は悪くないため、唾と一緒に言葉を呑み込む。代わりに、「すぐに行くとクロニエ様に伝えて」とだけ言うと、私は簡単に身だしなみを整えて部屋を出た。
クロニエ様が来ることを母が知っていたということは、クロニエ様から先触れが来ていたか、母がクロニエ様を邸に呼んだかだ。
けれど今日は学園がある日だということから、母が呼んだ可能性の方が断然高い。
男爵家と我が家の距離は、馬車で十五分ほどだから──父と二人でメラニン侯爵家に行くことになって、邸に一人になる私を心配した母がクロニエ様を呼んでくれたのだろう。
年齢的にも既に小さい子供ではないのだから、留守番ぐらい一人でもできるのに。
しかも、一人といっても使用人達がいるのだ。完全に一人きりになるわけでもないのだから、それほど心配される理由が分からない。
「全く……お母様は心配性なんだから……」
呆れたように呟くも、親に心配されて嬉しくないわけはないので、知らず顔は綻んでしまう。
けれど、そんな自分の表情に気づかず応接室のドアを開いた私は──そこにいたクロニエ様に投げかけられた言葉によって、羞恥で真っ赤になってしまった。
「おや、そんなにも笑顔で来てくれるなんて……俺の想いがようやくミディア嬢に通じたと期待してもいいのかな?」
「へっ!?」
なんのこと?
思わず素っ頓狂な声が出て、キョトンとした目で私は彼を見つめてしまう。
けれど、それからすぐに自分が母のことを考えながら微笑んでいたせいで彼に誤解させたのだと気づくと、だらしなく微笑んでいた顔を見られたことが恥ずかしくなり、一気に顔の熱が上がった。
「ち、違うの! 今私が微笑んでいたのは、クロニエ様のことを考えていたからじゃなくって、別のことを考えていたからというか──」
「へえ……そうなんだ。俺のことを考えて嬉しそうな顔をしてくれていたわけじゃないんだね……」
私の言い訳を聞き、明らかに落ち込んだ様子を見せるクロニエ様を見て、二の句が継げなくなる。
ここはたとえ嘘でも、クロニエ様に会えて嬉しいと言うべきだった……?
今更そんなことを考えるも、否定した事実は消せない。それにきっとクロニエ様は、たとえ私が嘘を吐いたところで見破ってしまうだろう。
ここは素直に謝ろうと、謝意を伝え、頭を下げる。
すると彼は、予想外のことを言い出した。




