不敬罪
その日──「面白い話があるから、早めに食堂へ来るように」という父からの言付けを受け取った私は、学園から帰った後、素早く着替えて食堂へと移動した。
お父様の言う“面白い話”というのは、一体どんな話なんだろう?
相手が父であるだけに、どう考えてもお金にまつわる話以外ではないような気がするけれど、それを話すためにわざわざ私を呼ぶということは……もしかして、ザガロの件なのだろうか? いや、むしろそれ以外に考えられない。クロニエ様とのことについては、今更話すことなんてないような気もするし。
そう考えた私の予想は見事に当たっていたらしく、先に食堂で待っていた父は、私が席に着くなり、すぐさまこう口にした。
「あの馬鹿についてだが、いつまで経っても金を払う気配がないから、今朝方、メラニン侯爵家に婚約破棄の書状を送りつけておいたぞ」
と──。
まるで世間話でもしているかのように、あっさりと。
けれどその内容に、私は思わず声を荒げてしまった。
「ええっ!? 突然書状を送りつけたのですか? メラニン侯爵家に!?」
興奮したせいで手に変な力が入り、ガチャン! とナイフが音を立てて床に落ちた。
けれど父はわずかに首を傾げただけだ。
「ミディアどうした? 何をそんなに動揺することがある」
この父は──!
基本的にお金のことしか頭にないため、貴族の常識に疎いところに腹が立つ。
いくら我が家が支援しているといっても、メラニン侯爵は高位貴族だ。比べて我が家は資産家とはいえ低位の子爵家。
高位貴族が下位貴族に対して書状を送りつけるならともかく、下位貴族が高位貴族に対していきなり婚約破棄を言い出すなどあり得ないし、問答無用で書類を送りつけるなど、頭がおかしいと思われてもおかしくない。最悪、不敬罪に問われかねない案件だ。
なのに目の前にいる父は平気でそれをやり、「面白い話がある」と言って私を呼びつけ、そのことを話した。
正直、何も面白くなんてないのだけれど!?
むしろ激しい頭痛を覚え、私は額を押さえて力無く頭を振った。
「お父様……なんてことをしてくれたのですか……」
全身から力が抜けていくような感覚に、気の抜けた声が出る。
今回は相手がメラニン侯爵家だから大丈夫かもしれないけれど、それだって大丈夫とは言い切れない。もしかしたら今回の件を盾に、無理やり婚姻させられることも十分にあり得るのだから。
「ん? まさかお前……まだあの馬鹿に未練があったのか?」
違う、そういうことじゃない。
未練だとかなんだとか、そんなの全く関係ないのだということに、どうしてこの父は気づかないのか。




