詐欺行為
「そうか……。確かにわしもジェニーに関しては、『身体が弱いから』と言って甘やかしすぎた自覚はある」
母親が間に入ったことで幾分冷静になったのか、侯爵の声に若干冷静さが戻る。
やはり愛の力は偉大だ。これで自分は大丈夫。お母様ありがとう。
声には出さず、心の中でそう呟いて、ジェニーは感謝を込めながら改めて母親にしがみつく。
そんな彼女を母親も抱きしめ返してくれ、なおも侯爵に許しを乞おうと口を開いたが、侯爵はそれ以上の発言を許してはくれなかった。
「でしたら──」
「しかし! 婚約者でもなんでもない貴族の令息達を何人も連れ歩き、カフェで好き勝手に飲み食いした挙句、その支払いを全額ノスタリス家の令嬢に押し付けて帰るとはどういうことだ!? その上、令嬢になりすまして買い物までしていたそうじゃないか! これは礼儀がどうのという問題を遥かに超えている! この行いはれっきとした詐欺行為だぞ!」
言われた瞬間、母親の身体が強張ったことにジェニーは気づいた。
次いで、自分を抱きしめていた母親の腕が離れ、代わりに両肩を掴まれる。
「ジェニーあなた……今旦那様が仰ったことは本当なの?」
真正面から見つめられ、ジェニーは気まずくなって目を逸らす。
詐欺行為だなんて──自分は決してそんなつもりじゃなかった。
ただザガロ様が自分を連れて街で買い物をする際、「ミディアの名を騙ってサインすれば、それだけでなんでも買える」と言っていたから、その通りにしていただけだ。なりすましたりなんてしていない。
言うなれば、ザガロ様の言う通りにしていただけ。なのにどうして自分が責められなければならないんだろう?
「ジェニー、どうなの?」
「正直に話すんだ」
母親と侯爵に詰め寄られ、ジェニーはごくりと唾を呑み込んだ。
誤魔化したところで大半のことは既にバレているのなら、正直に話すしかない。変に誤魔化すと、余計な疑いまでかけられる可能性がある。
そう考えたジェニーは、正直なことを二人に話した。
ただ──ミディアを誘ってカフェに行った理由については、“ミディアさんと仲良くなりたかったから”とだけ言った。
ミディアと仲良くなりたかったのは嘘ではないけれど、そもそも彼女と仲良くなりたいと思った理由が“色々とおいしい思いができそうだから”という不埒なものであったため、絶対にバレるわけにいかなかったのだ。
そんな理由で近づいたと知られようものなら、自分もザガロ様のように侯爵様に打たれるかもしれない──。
それだけはジェニーにとって、絶対に避けたいことであったから。
「けれど旦那様、どうして急にそんなことを……?」
首を傾げつつ尋ねた母親に、侯爵は一枚の紙を手渡した。
乱暴に握りしめられてシワクチャになったその紙を、母親がそっと広げる。
つい気になって、ジェニーはそれを母親の背後から覗き込み──刹那、驚きに大きく目を見開いた。




