ヒーローの敗北
格好つけて話に割り込んできたはいいものの、さほど高いものがないカフェで、そこまでの金額を請求されているとは思ってもみなかったのだろう。
ベルグリーズ様は数秒動きを止めた後、領収書とジェニーさんを見比べるかのように、忙しなく視線を動かした。
「こ、これは……もしかして、貴族街にある高級カフェか何かの領収書なのかな?」
彼がそう聞きたくなる気持ちは分かる。それほどまでに、ジェニーさんが持つ領収書の金額は高額だ。けれど残念ながら、彼女はブンブンと首を横に振ると、ベルグリーズ様の希望を打ち砕くかのようにこう答えた。
「貴族街のカフェなんてマナーにばっかりうるさいところ、私が行くわけないじゃない。私が行くのは平民街にあるカフェだけよ」
「そ、そうか。そうなんだね。は、はは……」
ベルグリーズ様は引き攣った顔で笑い、そのまま気まずげな視線を私へと向けてくる。
その表情は申し訳なさ半分、疑問が半分といったところだ。
彼はおそらく『たかだかカフェ』の請求金額が、何故そんなにも高額になるのかが分からないのだろう。
仕方なく、私は彼に簡単に説明してあげることにした。
「ベルグリーズ様、たとえ一品一品の値段がお値打ちなカフェといえども、大量に注文すればそのような数字になるのは必然です。しかもジェニーさんが言ったように、そのカフェは平民街にあるものなので、メニューには当然ながら全ての金額が明示されていました。であるにも関わらず、ジェニーさん達は大量の注文をし、『安ければ自分で払おうと思っていた』と言ったんですよ? メニューを見れば、大体の合計金額は分かったはずなのに」
これでも彼女達に支払うつもりがあったと思いますか? と暗に尋ねる。
合計金額の確認もせず、好き放題頼んだあたりで、彼女達に“支払い意思なし”であったことなど容易に知れるだろうに。
尤も、ジェニーさん達は今まで何度も同じ方法で私に支払いをさせてきたから、今回も当然そのつもりで、まさか自分達が支払わされる羽目になるなんて夢にも思っていなかったでしょうけれど。
「け、けど、ジェニー嬢は計算が苦手だから、それでもしかしたら──」
まだ言い募るベルグリーズ様に、私は致命傷を与えるべく口を開く。
「そういえば、ジェニーさんは昨日カフェにたくさんの令息達を連れてきていたから、彼らの注文のせいで余計に高額になったのかもしれないわね。……あなたは確かそこにいなかったけれど」
最後の一言を告げた瞬間、それまで懸命になってジェニーさんを庇っていたベルグリーズ様は、真っ青になって沈黙した。
彼的には、今回彼女を助けることで接点を持ち、あわよくば深い仲へ──などという考えがあったのだろう。
彼のそんな甘い考えは私の一言によってあっさりと打ち破られ、後には彼以外の令息達が既にジェニーさんの傍にいるという現実だけが残された。
とっくに自分が出遅れていたということと、今まで彼女にただの一度も誘われたことがないということに、彼は二重で衝撃を受けたに違いない。
その証拠に、ベルグリーズ様はそのまま何も言わずに身体の向きを変えると、ふらつきながら自分の席へと戻って行った。
せっかく少しでも彼女に好かれようと庇いに出てきたのに、残念だったわね。




