ヒーロー気取りの令息
「その領収書がどこの店のものかは流石に分かっているわ。昨日はごちそうさま。今まであなた達に散々奢ってあげた分、昨日はようやく紅茶一杯をご馳走になったけれど、その領収書がどうかしたのかしら?」
にっこりと笑って言葉を返せば、ジェニーさんの顔色が明らかに悪くなる。
それは当然よね。昨日の代金を支払ってもらおうと思って領収書を私のところに持ってきたのに、『ごちそうさま』と言われたのだから。
私が彼女達に奢られた気でいる以上、普通の神経を持っていれば「お金を出してほしい」とは言い出せないはず。
──まあ、思うにジェニーさんは、ちょっと人とは違う神経をしていそうだから、言い出す可能性はゼロではないけれど。
そんな風に考えていると、なんと彼女はふてぶてしくも、もう一度私の前に領収書を突き出してきた。
「私だって、いつもミディアさんに奢ってもらって悪いと思ってるわ。でも昨日のこの金額は、ちょっと私達が負担するには大きすぎて……」
「あら? 私が飲んだ紅茶は、それほど高くなかったはずだけれど?」
私はあくまでも、自分のもの以外は支払わないという姿勢を崩さない。
ここで少しでも付け入る隙を見せてしまえば、昨日の行動が全て台無しになってしまうからだ。
するとジェニーさんは慌てて頭を横に振り、次いで私に向かって懇願するように両手を組んだ。
「あの、そうじゃないの。私が言いたいのは、ミディアさんが飲んだ紅茶の料金だけじゃなくて、私達が食べた分の料金も払ってほしいって──」
「えっ!?」
そこでわざとらしく大きな声で驚いて、私は教室内の視線を集めた。
私としては何一つ悪いことはしていないのだから、後々ザガロに因縁をつけられないようにするためにも、この会話を他の人にも聞いてもらい、証人になってもらうためだ。
今ではザガロに絡まれることは殆どなくなってきているけれど、用心するに越したことはない。
「つまりジェニーさんは、私が手をつけていない食べ物や飲み物の分まで私に支払いをしろ……と言うの? あんなにもたくさん好き放題頼んでおいて?」
「えっと、だからそれは……元々ミディアさんに払ってもらうつもりだった……じゃなくて! 安ければ自分で払おうと思ってたのよ? でも予想以上に高かったから……」
嘘だ──。本当は自分で支払う気なんて一ミリもなかったくせに。
私が彼女に冷たい目を向けていると、やはりというかなんというか、ヒーロー気取りの──ベルグリーズ伯爵家のアルファルド──令息がジェニーさんを庇うためにしゃしゃり出てきた。
「ノスタリス嬢、そんなに彼女を責めなくてもいいじゃないか。元々は自分で払う気だったと彼女も言っていることだし、悪気があってやったわけじゃないんだろう? 君の家はお金持ちなんだからさ、たかだかカフェの支払いぐらいでそんなに怒る必要は──」
「ではジェニーさんが持つ領収書の金額を見ても、あなたは同じことが言えますか?」
私の言葉に、話に割り込んできたベルグリーズ様は「カフェの金額なんて、どうせ大したものじゃないんだろ?」と言いつつその金額を確認し──刹那、その場で凍りついたように動きを止めた。




