差し出された領収書
次の日──。
「ミディアさん、これ……」
学園に登校してきてすぐ、ジェニーさんは私に一枚の領収書を差し出してきた。
領収書に書かれた店名は──昨日ジェニーさんに誘われて行ったカフェのものだ。
請求書ではなく、領収書ということは──少し前に貴族街と平民街に出した通達──最近ノスタリス家の令嬢ミディアの名を騙り、ツケ払いを繰り返す悪質な詐欺が横行している。そのため、今後暫くの間ミディア嬢からのツケ払いは断るように。もし万が一ツケ払いを受けてしまったとしても、当家は支払い拒否するのであしからず──が行き届いているということ。
こちらもクロニエ様の案で、我が家に際限なく届く請求書に頭を悩ませていることを話の流れによって口にした時、その知恵を貸してくれた。
幸いにも、私は父と違って金額の大きな買い物をすることは殆どないから、ツケ払いができなくとも困ることはない。全て現金で事足りてしまう。
ただ問題があるとすれば、私のような若い女性が一人で現金を持ち歩くのは危ないため、買い物に行く際は毎回護衛を連れて出なければいけないということぐらいだ。
けれどその程度、今後ジェニーさんに私の名前で勝手に好き放題買い物されなくなると思えば、大したことではない。
そうしてその通達を出した成果が、早速昨日出たということなのだろう。
ジェニーさんはおそらく昨日カフェで私に先に帰られたあと、得意の──ジェニーさんが私に成り済ますことによる──ツケ払いをしようと思ったらできず、慌ててみんなでお金を出し合い、何とか支払ったものの、金額があまりにも高額だったため、次の日になった今日、私にお金をねだりにきた……ってところかもしれない。
だけど残念、私はもう二度とあなた達に奢るつもりはないのよね。
ここはキッパリ断ろうと、私は彼女に対して口を開く。けれど、ふと思いついたことがあって、直前で対応の仕方を変えた。
「……なあに? これ」
まずい、思ったより阿呆くさくなってしまった。
クラスメイトが周りにたくさんいる状況でジェニーさんに冷たい態度をとって、もし彼女が泣き出しでもしたら私がいじめたことになってしまうと思ったから、とぼけることにしてみたけれど。普段そんなことしないものだから、違和感ありまくりになってしまった。
こんなことなら、やらない方が良かったかもしれない……。
恥ずかしくなって、つい下を向く。
いくらジェニーさんを泣かせないためとはいえ、慣れないことはするものじゃないと心に刻む。
一人で密かに反省会をしていると、どうやらジェニーさんは私のわざとらしい演技に気づかなかった──それどころじゃないと言うべきか──らしい。
「何、これって……昨日みんなで行ったカフェの領収書じゃない……」
と震える声で言ってきた。
そんなのは当然見れば分かることなのだけれど、どうやらジェニーさんには私の言いたいことが伝わらないようで。
仕方なく私は、彼女にも分かるように説明を付け加えた。




