蚊帳の外の存在
今日も、ジェニーに逃げられた──。
馬車止めに向かって園庭を一人トボトボと歩きながら、ザガロは苛立つ気持ちのまま、拳を握りしめていた。
何日か前、屋敷でジェニーについ怒鳴ってしまってからというもの、自分はずっと彼女に避けられ続けている。
学園に向かう馬車には一緒に乗るものの、話しかけても一言も返事をしない。それどころか、部屋に行ってもドアを開けてもくれず、当然ながら呼びかけは聞こえないふり。そんな毎日で──。
ならば学園で、人目がある場所で話しかけたら流石に無視できないだろうと、授業が終わった途端、大急ぎで鞄を持ち、ジェニーの教室へと全速力で向かったのだが──。
彼女は既にいなかった。
クラスに残っていた者に聞いてみれば、ミディアの後を追いかけるようにして、慌てて出ていったという。
一体いつの間に、ミディアとそんなに仲良くなったんだ?
自分と彼女は婚約破棄一歩手前まできているというのに、そんな時になって彼女と仲良くする理由はなんだろう?
最初のうちは、結婚後にミディアが同じ侯爵家に住むようになるからだと思っていた。今のうちにミディアの機嫌をとっておけば、そのままスムーズに同居生活に入れるからだろう──と。
後はかつて自分がしていたように、うまい具合にミディアに取り入って、おいしい思いをしようと考えているのか──。
どうも最近のジェニーの様子を見ていると、絶対的に後者であるような気がした。
登校こそ毎日一緒にしているものの、最近ではほぼ毎日別々に屋敷へと帰っている。それだけではなく、ジェニーは頻繁に有名な菓子をお土産に持ち帰り、こっそりと部屋で食べているようなのだ。
おそらく、両親にバレると咎められると分かっているからだろう。
ろくにお小遣いをもらっていないジェニーが高価な菓子を買って帰るなど、あり得ないことなのだから。
しかし、ならばどうして自分を一緒に連れて行ってはくれないのか。
以前怒鳴ったことを未だ怒っているとしても、ミディアの婚約者は自分だ。ジェニーより、自分こそが一緒に行く権利がある。
なのに、毎回毎回置いて行かれるのは何故なのか。
しかもこれは、自分がジェニーを怒鳴る以前からのことなのだ。
怒鳴られたことで彼女が機嫌を損ね、わざと置いて行っているというのなら、まだ頷ける。だが、そうではない。
「とすると……もしかしてあれか?」
一つだけ思い当たることが頭に浮かび、ザガロはつい声を出す。
しかし、思いのほか大きな声が出てしまい、周囲の注目を集めていることに気づいて、慌てて馬車へと乗り込んだ。
走り出した馬車の中で、彼は腕組みをして考える。
そういえば、一時期自分はミディアがジェニーをいじめるかもしれないことを心配し、二人をあまり近づけないよう邪魔をして、無理やりジェニーを連れ帰っていた。もしかしたら彼女はあの時のことを根に持っていて、自分がいたらミディアと寄り道できないかもしれない──と考え、自分を置いて行っているのでは?
そう考えれば、今の状況に納得できないこともない。
しかし、あの時ジェニーは確かに、心配するザガロに対し「優しいんだね」と言っていた。
なのに今や完全に自分は蚊帳の外の存在となり、ミディアとジェニーは二人で仲良く友達ごっこをしている。
将来的にミディアと結婚するのは自分であり、ジェニーは所詮義妹という立場でしかないのだから、ミディアとの仲を深めなければならないのは明らかに自分の方だ。それなのに、どうしてこんなことになっているのか。
しかも、心配事はそれだけではない。
このままの状態でいれば、そう遠くないうちに、ミディアから婚約破棄されてしまうような気がする。
そのきっかけを作ったのは自分であり、お金を返しさえすれば、とりあえず何とかなることは分かっているが。とはいえ、ないものは返せない。
それでも以前は、ミディアからの好意を全身に感じていたから、心配することなど何もなかった。だが、今は──。
金が返せず、苦し紛れに『君が大切だ』とミディアに言った時のことを思い出す。
あの時の彼女の瞳は、凪のように穏やかだった──。
――――――――――――――――――――――――――――――
全部が全部一人称だと分かりにくいと感じましたので、
主人公のターン以外は三人称へと変更しました。
「こっちのほうがいいよ!」って方は、ぜひ良いねで教えてくださーい。
(良いね少なくても、今後は三人称です)




