ハイエナ
クロニエ様に最近の一番の悩み事の解決策を教えてもらった私は、気分よく放課後の園庭を歩いていた。
彼が教えてくれた方法は、言われてみれば「なるほど、そうか」と思えるほど簡単なもので。逆にどうして今までそんなことに気づけなかったのだろうと、自分でも疑問に思ってしまった。
けれどこれで、今日からは理不尽な思いをしなくても良いかもしれない。
後は私が言われた通りに行動できさえすれば、問題は解決できるだろう。
「……どうだ? いけそうか?」
頭の中で何度もシミュレーションを繰り返す私に、クロニエ様が心配そうに声をかけてくる。
「……うん、多分大丈夫……だと思う」
自信を持って「大丈夫!」と言えないところが悲しいけれど、こればっかりは出たとこ勝負。やってみなければ、どうなるか分からない。
それでも、今回を逃せば次の機会は格段に難易度が上がってしまうことが分かっているから、やるだけやってみるしかない、という気持ちで頷いた。
「絶対に成功させてみせるから、心配しないで報告を待っててくれると嬉しいわ」
彼の心配を払拭するように笑顔を見せる。すると、そこでタイミング良くどこからかジェニーさんが私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ほら、来たぞ。いつまでも良いように使われてないで、今日こそガツンとやり返してやれよな」
友達の距離を保って傍を歩いていたクロニエ様が笑いながら言い、「ほら、行った行った」と背中を押してくる。
彼に押されたせいでジェニーさんの前へと飛び出すような形になってしまった私は、思わず一瞬表情を固くしてしまったものの、次の瞬間にはにっこりと微笑みを浮かべ、口を開いた。
「ジェニーさん、こんにちは。私のことを呼んだかしら?」
「…………」
普段は迷惑そうな顔しかしない私が微笑んだことに警戒心を抱いたのか、ジェニーさんの瞳に疑うような光が宿る。
その瞳を見つめつつ、今更笑顔を引っ込めることもできない私は、(今日は作戦を実行するのはやめにしようかしら……)と内心で呟き、「じゃあ、また」と彼女に背を向けようとした。
刹那──。
「待って! ミディアさん!」
私を呼び止める声と共に袖を掴まれ、その場に引き留められた。
「どうしたの? 私に何か用事?」
答えを知りつつも知らない振りをして尋ねると、ジェニーさんは数瞬考えた後、「ちょっと行きたいところがあるんだけど、一人で行くのは恥ずかしくって……ミディアさん、一緒に行ってくれない?」と言ってきた。
別に私が一緒に行かなくても、あなたにはついてきてくれる令息達がいっぱいいるでしょ──と反射的に思ってしまったけれど、当然それを口にするようなことはしない。
彼らとジェニーさんは一体どういう関係なのか──彼らは最初から一緒にいるわけではないのに、気づけば毎回どこからともなく姿を現し、一緒にお茶や買い物を楽しむという……クロニエ様曰く、ハイエナのような存在だ。
彼らはジェニーさんにとっては、大切なお友達なのかもしれない。もしくは彼女のお世話係?
けれど私にとっては、単に資産を食い潰す余計な人達でしかない。
「私とはなんの関係もない人達に、これ以上無意味なお金を使うわけにはいかないわ……」
ジェニーさんと連れ立って街へ向かう道を歩きながら、私はそっと拳を握りしめた。




