恐ろしい笑顔
やっぱりクロニエ様は頼りになる。
私なんかとは全然頭の出来が違うわ。
宝飾品については完全にザガロ自身の“やらかし”であるわけだし、だからこそ私は侯爵様にまで話を持っていくつもりはなかったのだけれど。話が堂々巡りになってしまっている今、それしかもう方法はないし、ザガロはまだ未成年だから、クロニエ様の言う通り、親として侯爵様に責任をとってもらうのが一番良いのかもしれない。ザガロ一人では、どう頑張っても宝飾品の代金は支払えないに決まっているし。
「クロニエ様って、凄いわね……」
話の問題点に即座に気づき、その解決策をあっさり導き出してしまった彼に、私は素直に尊敬の念を抱く。
彼とだったら、父が言うように商売繁盛まっしぐら──かもしれない。
逆にザガロとだったら──家計は火の車、商売は自転車操業になるだろう。
つい二人を比べて考えてしまい、こんなの失礼よね──と私は軽く頭を振った。
クロニエ様はクロニエ様で良いところがあるように、ザガロだって良いところがある。
婚約したての頃は私の話をよく聞いてくれたし、落ち込んでると励ましてくれたりもして──けれどそれは、全てジェニーさんが現れる前のことだ。今のザガロは、私とまともに話をしようとさえしてくれない。
ただひたすらにジェニーさんのことだけを気にかけ、私に纏わり付く彼女をなんとかしてひっぺがそうと、日々奮闘している。
彼は私がジェニーさんに害を為さないか心配しているみたいだけれど、私は絶対にそんなことはしないし、できれば放っておいてほしいと思っているのに。
「私に付き纏ってくるのはジェニーさんのほうよ」
といくら言っても信じてくれず。
「美味しいお茶やお菓子でジェニーを手懐けようとしても、僕はお前の言いなりになどならないからな!」
と訳の分からないことを言い、去っていく。
そもそも今まで一度だって、彼が私の言いなりになってくれたことなんてなかったのに。
私がザガロを言いなりにしたところで、一体なんの得があるというのだろうか。
「もう今はただ、私を解放してほしいと願うばかりだわ……」
深くため息を吐き、なんとなく空を見上げる。
その時ふと、“あること”をクロニエ様に相談してみようと思い至った。
私がいくら考えても良い案は浮かばなかったけれど、クロニエ様ならもしかしたら……。
「あ、あの、クロニエ様!」
「ん? 何?」
顔を彼のほうへと向けた途端、いつの間にか私を見ていたらしいクロニエ様と目が合い、優しく微笑まれる。
やめて! 顔の暴力が凄いから! そんな優しい目で見つめられたら、溶ける自信がある!
そんなことを思い、咄嗟に顔を隠して相談事を口にすると、彼はしばらく沈黙した後、恐ろしく深いため息を吐いた。
「はあぁぁぁぁぁ……。そんなことになっているなら、なんでもっと早く相談しないわけ? 俺ってそんなに君にとって頼りにならない?」
「違っ……、そういうわけじゃなくて。人に相談するようなことでもないかなあ? と思ってたものだから……」
私を見る彼の目が責めるように細められていて、しどろもどろに言い訳をしてしまう。
すると、不意に伸びてきた彼の手が私の手を捉え、素早く指先へと口付けられた。
「今日はこれで勘弁してあげるよ。最終的には俺を頼ってくれたし、それだけでも嬉しいから。けど、次また一人で問題を抱え込むようなら……」
瞬間、クロニエ様の表情が“無”になる。そして──。
「二度とそんなことできないように、君の身体に教え込むから」
と恐ろしい笑顔で言ったのだった。




