決意
「私、そろそろザガロに正式に婚約破棄を突きつけるわ」
立ち上がり、私は拳を握りしめてそう宣言する。
もう既に一月待った。
これ以上待ったところで、どうせ彼がお金を返してくれることはないだろう。
だったら少しでも早く婚約破棄した方が変なあだ名も払拭できるし、ジェニーさんの付き纏いからも逃れられるかもしれない。
侯爵家への支援については、まだどうするか答えが出ていないけれど、それは先ほどクロニエ様が言ったように、父と侯爵様の問題だ。私には関係ない。
「お、ようやくその気になったか」
クロニエ様が嬉しそうな顔で、瞳をキラキラと輝かせる。
せっかく求婚してくれたのに、私が問題を履き違えてぐだぐだしていたせいで、一ヶ月も彼を待たせてしまった。そろそろちゃんと返答しなければ彼も可哀想だし、いつまでもこうしてコソコソしているわけにもいかない。
それに、今、一番の問題はジェニーさんだ。
彼女のことは、一度ザガロの暴言から庇ってもらってカフェに行ったは良いけれど、あの時に私が奢ったことに味を占めてしまったのか、あれからほぼ毎日のように帰り際に寄り道に誘われるようになり、最近ではかなり鬱陶しく感じるようになっていた。
私自身が寄り道したいわけではなく、ただジェニーさんが行きたい、気になっているお店にほぼ強制的に連れて行かれ、お茶だのなんだのに付き合わされる。しかも、彼女の取り巻きらしい令息達も毎回何人かついてきて、ちゃっかりおこぼれに与るせいで、その分の請求金額までも上乗せされた状態で、なぜか私が毎回支払わされるのだ。
何度か「彼らは私と関係ないので……」と店員に伝えてみたけれど、彼らはうまい具合に私より早くジェニーさんと連れ立って退店していってしまうため、ただ一人残されてしまった私が強制的に支払わされるという羽目に陥っていた。
これってどう考えてもおかしいし、人数が多いせいで、ザガロとデートしていた時より明らかに出費が多くなっている。
今以上に資産を減らしたくなくてザガロとの婚約破棄を決めたのに、これでは何の意味もない。
「とにかく一刻も早く、あの義兄妹から離れないと……」
以前はザガロに愛情があったから、彼に対してお金を使うことを厭わなかった。
けれど、愛情がなくなってしまえば、都合よく人のお金を使って楽しむ最低の人達──としか思えない。
「そんじゃまずは……侯爵家に対する支援をどうするか考えないとな」
「そうね……」
支援については父の受け持ちとはいえ、婚約破棄するとなると、ザガロは絶対にまたそれを引き合いに出してくる。
その時になんと言って彼に言い返すか──あらかじめ考えておかなければいけない。
「そもそも約束を破るあなたが悪いんだから……じゃ、弱いわよね。あなたが約束を破らなければ、こんなことにはならなかった?」
「う~ん……それでも結局『だから金は返すと言っているだろう!』って言われて終わりじゃないか?」
「そうよね……」
既に何度も同じやり取りを繰り返してきた。
お互いに同じことしか言わないため、この件について幾度話をしたところで、解決することはなく──。
「俺としては、もうメラニン侯爵に話を持っていくしかないと思う。結局のとこ、メラニン侯爵令息が簡単に約束を破るような男になったのは親の教育が悪かったってことだし、ノスタリス子爵との約束を破った以上、罰を受けるのは当然だろ? 約束は破る、けどその分の代償は支払わない。なのに婚約と支援は今まで通り続けろ……なんて、どう考えても許されることじゃないだろ」
確かに、彼の言う通りだった。




