問題物件
そう言われれば、確かにそうだ。
私は今まで自分の資産のことばかりに頭がいっぱいで、宝飾品についての約束を破られたことなど忘れかけていたけれど、元はといえば、ザガロがジェニーさんとお揃いのアクセサリーを身に着けて登校してきたことが始まりだったんだ。
「……それで? ミディア嬢がメラニン侯爵令息とお揃いで作ったブローチは今、どうなってる? 既にできてるけど、何となく渡しにくくて渡してないとか、そんな感じか?」
クロニエ様に見事に心境を言い当てられて、ぎくりとした。
正しくは、『渡しにくい』のではなく『渡したくない』のだけれど。
「以前はものすごくザガロのことが好きだったのに、本当の意味で彼に好きになってもらえないと思ったら、スーッと気持ちが冷めちゃって。こうなるまでの間は、一人で泣いたり喚いたりして結構大変だったし、誰の目をも引くような高価なブローチをお揃いでつけて、ザガロの婚約者は私よ! って宣伝したい気持ちもあったんだけどね。今は不思議と彼に尽くしたいと思う気持ちがなくなって、むしろ彼に使うお金がもったいないとまで思うようになっちゃった」
だからブローチは渡していないのだと暗に伝えると、クロニエ様は「なるほどな」と言って頷いた。
まさか、自分がこんな風に考えるようになる日が来るなんて、少し前までの私なら予想もつかなかったに違いない。
ザガロのために、彼の言いなりになってお金を使うことが当たり前の日常になっていたから。
「じゃあさ、無事に婚約破棄できたら、俺にそのブローチくれないか? 君の場合は婚約者が馬鹿すぎて、婚約してるのにも関わらず君のこと狙ってる令息が結構いてさ、俺としては気が気じゃないから、ここは一発周りにドカンとアピールしたいんだ」
「で、でも私、まだあなたと婚約するって決めたわけじゃないし……」
言いながら、このままいけば私はクロニエ様と婚約することになるのだろうなと考える。
最近の彼は暇を見つけては我が家に出入りして両親と話をしたりしているし、家柄が男爵家ということを除けば、婚約者として理想的な人物であることは確かだから。しかも、ザガロと婚約している間に貴族への販路の根回しを終えた父は、「もう貴族の“つて”に頼る必要はないから、お前は勝手に好きな男と結婚すればいい」とまで言っている。
つまり、私の結婚相手は侯爵家だろうが男爵家だろうが、それこそ平民であっても構わないのだと。
「カスパル君はどこかの馬鹿と違って商才がありそうだし、いっそ二人で平民から始めるのも面白いんじゃないか?」
なんてことまで、父は楽しげに言っていた。
貴族令嬢の私が平民に身分を落としてやり直すなんて流石にやりたくはないけれど、クロニエ様と協力して商売をするというのは少しばかり面白そう──と正直なところ思ってしまった。
ついでに、この一ヶ月の間、密かにクロニエ様のことを色々調査してみたら、基本的にクールで通っている彼はほぼ令嬢達とは話をせず、仲良くしている令息達は皆、しっかりした家柄の中身もしっかりした方達ばかりだった。
比べてザガロはといえば──気軽に令嬢達に話しかけるわ、仲の良い令息達は女性にだらしない方達が多いわで、まさに対極にいるといっても過言ではない状態。
今までは“恋愛感情”という色眼鏡をかけて彼を見ていたから気づけなかったけれど、冷静になってみると、ザガロはかなりの“問題物件”だった。




