すり替えられた問題
「……で? 婚約破棄はどうなった?」
学園内の人目につかない裏庭で、クロニエ様が意地悪な笑顔で問いかけてくる。
彼が私に『愛をお金で買って欲しい』と言ってきてから既に一月が経過していて、最初のうちは大人しくしていた彼だったけれど、段々待ちきれなくなってきたらしく、今ではこうして頻繁に婚約破棄の経過について尋ねてくるようになっていた。
「それが……その、私は婚約破棄する方向で話を進めようとしているのですけど、ザガロが『お金は返すから』の一点張りで……」
そう。父がザガロに突きつけた条件は、使い込んだお金を返すか婚約破棄。できれば両方──というものなのだけれど、ザガロはそのどれもに頷かず。
お金がないのは分かっているから、だったら婚約破棄でいいじゃないと話を持ちかけてみたものの、「愛する君と結婚できなくなるなんて冗談じゃない!」と大嘘を喚く始末。
愛しているのは私じゃなくて、私のお金の間違いだと思うけど、どちらにしろこのままお金を返すことができなければ、私達の婚約は破棄される。けれど私がそれを言ったところ、なんと彼は自分の父親である侯爵様のことを持ち出してきた。
「僕達が婚約破棄になれば、我が家への支援は止まるのだろう? そうなったら困るのは誰だ? 領民と父上だろう! 君は僕と婚約破棄したいという自分のわがままのために、我が侯爵領の領民と父上を路頭に迷わせるのか? そんなことをして、君は心が傷まないのか?」
と。──
もちろんそう言われると、私だって心が痛む。
そもそもザガロが私の資産を使い込んだのは、私自身の管理不行き届きも原因としてあるから尚更だ。
私がきちんと自分の資産を管理して、ツケ払いなんてものを容認していなければ、こんなことにはならなかった。だからこそ、躊躇してしまう。
たとえザガロがジェニーさんに心変わりしたからといって、そんなにも簡単に自己都合で婚約を破棄していいものだろうか? と。
そんなことをつらつら語っていると、クロニエ様に突然額を“ツン”──とつつかれた。
「な、なに!?」
驚いて額を押さえる私に、彼はやれやれとばかりに肩をすくめてため息を吐く。
「さっきから聞いてたらさ、それって単に問題をすり替えられてるだけで、ミディア嬢はなにも悪くないわけだろ?」
「え……どういうこと?」
「メラニン侯爵令息が払わなきゃいけないお金は、あくまで“宝飾品の代金”であって、使い込んだ君の資産はおまけ的扱いでしかないってこと。なのになんで宝飾品のことは置いといて、君の資産についてのみお互いで話をしてるわけ?」
言われて気づいた。
私は大変な思い違いをしていたということに。
「君の資産をどうするかは君の問題。けど宝飾品の案件については……ノスタリス子爵との約束だろ? それを破ったから婚約破棄にまで話が発展しているわけで……宝飾品の代金を踏み倒したまま婚約継続ってのは、普通に考えて許されないと思うけど?」
むしろ婚約破棄が長引いてる分、ノスタリス子爵なら慰謝料とか余分に請求しそうだよな──とクロニエ様は楽しげに笑った。




