亀裂
ちょっと怪我させられたぐらいで殺人に手を染めないでよね──と、ザガロ様の狂気に内心引き気味になりながら、こっそり呟く。
そもそも、あんなに優しそうなミディアさんが、ザガロ様に対する嫉妬で私をいじめてくるとか絶対ないと思うんだけど。
仲良しだった時も確かにあったはずなのに、この人は本当に今までミディアさんの何を見てきたんだろう?
そんなの私にはどうでもいいことだし、関係ないといえば関係ないことだけど、何だかちょっとだけミディアさんが可哀想になってきちゃった……。
本当にこんなクズと、ミディアさんをくっつけてしまっていいの?
そんなことになったら、ミディアさんは将来確実に不幸になってしまうのでは?
そう考えると二人を結婚させることに躊躇いが生まれるものの、ザガロ様の言う通り、彼女がクズ好きだという可能性は捨てきれない。
最近ようやく距離を置き始めたとはいえ、学園に入学するまでは、毎週欠かさず彼女からザガロ様にデートのお誘いがきていたのは事実だから。
どんなに最低最悪な男でも、ある一定数の女性はその男に惹かれるというものね。
もしかしたら、ミディアさんもそのタイプなのかもしれない。本人が完璧に近い人だから、その分クズに惹かれる──みたいな。
だったら私がやるべきことは、以前のように二人を仲良くさせることよね。結果的にはそれが自分の幸せにも繋がるわけだし。
心の中で「よし!」と気合いを入れると、私は少々ぶりっこしながらザガロ様の服の袖をそっと掴んだ。
「でしたらザガロ様、今度は三人でお出かけしませんか? ミディアさんが授業で使ってるガラスペンがあるんですけど、それがとっても素敵で……私も同じものが欲しいなあって思って……」
「ガラスペン? あ、ああ……そうか」
何だろう?
何だかザガロ様の歯切れが悪い。
いつもだったら「なら、すぐに買いに行こう。僕が誘えばミディアは喜んでついてくるからな。次の週末はどうだ?」と言ってくれるのに。
「ザガロ様? 三人だと何か都合が悪いのですか?」
彼は私と二人で行きたいんだろうけど、ザガロ様とミディアさんの仲を取り持つためだし、なにより私はもう今以上に彼に好かれたくない。
だから絶対三人で! と願いを込めつつ可愛らしく首を傾げて尋ねると、ザガロ様は「うっ……!」と言って胸を押さえた後、何やら言いにくそうに目を伏せた。
「ごめん……ジェニー。しばらくの間、買い物は控えたいんだ……」
「えっ!? ど、どうして?」
つい、聞き返してしまう。
そんなこと急に言われても、受け入れられない。
学園に入ってからは色々と忙しくて街に行く余裕がなかったけれど、次の週末ぐらいからはまた遊びに行こうと思っていたのに。
「そんなの嫌! まだまだ欲しいものがいっぱいあるんだもん」
そんなこと言わないで──とザガロ様の腕を掴んで揺さぶるも、彼は力なく首を振るだけ。
「本当にごめん。ただ本当に、しばらくお金を使いたくなくて……ごめん……」
ただ謝られても納得できない。
メラニン侯爵家にお金がないのは知っているから、今まで通りミディアさんのお金を使えばいいだけなのに。どうしてそれができないの?
「なんで? 急にそんなこと言われても納得できない! 駄目ならちゃんとした理由を教えてよ!」
けれど──。
「うるさいな! お金が使えなくって一番困ってるのは僕なんだよ! 大人しく言うことを聞けよな!」
ザガロ様は大声で私を怒鳴りつけると、そのまま踵を返して去っていってしまった。
初めて会った時からいつだって私に優しくて、一度も声を荒げたことのないザガロ様が?
今、私に怒鳴ったの──?




