ジェニーの本音
話題のカフェで好きなだけ軽食やドリンクを堪能し、たくさんの男子学生達に侍かれ、いい気分でメラニン侯爵家へと帰宅した私は、部屋に戻るなりドタドタとうるさい足音が近づいてくるのを耳にして顔を顰めた。
せっかく人がいい気分に浸っているというのに……台無しね。
そうは思うも、足音の主はメラニン侯爵家の嫡男であるザガロ様だ。
平民から引き取られて貴族になった私とは違い、生粋の貴族である彼に私は逆らえない。
どんなに彼の顔が平凡でも、性格から体型から全てにおいて他人より突出したところが何もないつまらない男でも、私はいつでも笑顔で彼に対応しなければならないのだ。なぜならそれが侯爵家に引き取られた私の務めだから。
ただそうするだけで評判のお菓子が食べられたり、高価な文房具やアクセサリーが手に入るのだから、チョロすぎて笑ってしまう。けれど一点だけ難を述べるとするなら、彼が時々私に『好きだ』と言ってくるのだけは、やめて欲しいと思っていた。
たとえ嘘でもザガロ様に『好き』だなんて言いたくもないし、引き取られた家の嫡子に懸想して追い出される──なんて間違いは絶対に犯したくない。しかもこんな──なんの魅力も感じない男に、傾国の美女と言っても過言ではない私が懸想するだなんて、あり得なさすぎて鳥肌が立つ。
せっかくミディアさんという、見た目的にも金銭的にも優れた婚約者がいるのだから、そっちで満足しておけば良いのに。
侯爵家の嫡男である自分にどれだけ魅力があると思っているのか知らないけれど、学園での彼の評価はものすごく悪かった。けれどそれは当然だと思う。正規の婚約者を放っておいて、血の繋がらない義妹ばかりを大切にするようなクズなんて、私から見ても最低としか思えないから。
幸いにも私は病弱なのと儚げな美貌を“ウリ”にしているおかげで学園内でまだそれほど無視されてはいないけれど、ザガロ様に至っては、既に高位貴族の令息達から距離を取られ始めている。
最近ではミディアさんも若干距離を置いているような気がするから、このままだとまずいかもしれない。
ミディアさんに縁を切られたら、贅沢できなくなっちゃう……!
それぐらい簡単なこと、私でも分かるのに、ザガロ様はイマイチよく理解していないみたいで、ミディアさんを適当に扱っている。
「ミディアは昔から僕一筋だから大丈夫だ」
なんて、どの口が言っているんだか。
絶対に視力検査に行ったほうがいいと思うけど、そんなこと言うわけにいかないし。
いよいよ足音がすぐそばまで近づいてきて、(めんどくさいなあ)と思っていると、ノックも何もなく、ザガロ様がいきなり私の部屋に飛び込んできた。
「ジェニー! 今日のあれは、どういうことだ!?」
「…………(ノックなしですか)」
普通は家族といえどもノックするものよね? ザガロ様は高位貴族の嫡男なのに、そんな礼儀すらも知らないの?
なんてことを内心で思うも、口に出せるわけがないから「いやあ! 急に入ってこないでくださーい! ザガロ様のえっちい」とわざとらしく言ってみた。
案の定、彼は一瞬で顔を真っ赤にすると、慌てて部屋から退出していく。
「ご、ごめん! 頭に血がのぼっていたものだから、つい……!」
血がのぼっていなくても、普段からノックを忘れがちなくせに、よく言う……。
というのは置いておいて。
「……もしかして、今日カフェに行くのに置いていったこと、怒ってます?」
とこちらから聞いてあげれば、彼は「当たり前だろう!」とドアの向こうから怒鳴ってきた。
「僕はいつだってジェニーのことを心配して、君のことだけを考えているのに、君はミディアの肩を持ったばかりか、二人で連れ立ってカフェに行くなんて……。あんな性悪と一緒に行って、もしいじめられたらどうする気だったんだい? 君がミディアに怪我を負わされようものなら、僕はミディアを殺してしまうかもしれないよ……!」
うわっ、こわっ。




