最低な人
このままの付き合いを続けていたら、結婚する前に個人資産を使い果たしてしまうかもしれない。
それも自分のためではなく、婚約者であるザガロと、その義妹であるジェニーさんのために。
そんなのは嫌だ。私は二人に散財させるために資産を貯めてきたわけじゃない。
けれど、どうしたら彼らにツケ払いをやめさせられる? 注意したところで、聞き耳を持つとは思えないのに。
真っ青な顔で書類を見つめ、一言も発せなくなっているザガロを見つめる。
あの宝飾品だけは、ツケ払いが受け入れられなくて良かった。もしあれすらもツケ払いで済まされていたら、私の資産はほぼ空になってしまっていただろう。
「あ、あの……お金を払う以外で、何か方法はありませんか?」
その時ザガロが、弱々しく声を発した。
「約束を破ったことは、申し訳なく思っています。だけどこんな金額、とても僕の家の力じゃ払えないし……無理だ。だからお金以外の方法で、なんとかできませんか?」
縋るような目を父に向けるも、父は「ふむ……」と言ったきり、黙り込んでしまった。
そのまま暫く沈黙が続き、無言の圧力に耐えきれなくなったらしいザガロが助けを求めるかのように私の顔を見たけれど、目が合うより一瞬早く、目を伏せることで私は彼の視線から逃れた。
この件に関して、彼に手を差し伸べるつもりはないし、ましてや庇うなんてあり得ない。
そもそも私は最初から宝飾品の支払いを拒否していたし、その事実を受け入れず、父に直談判して支払いをお願いしたのはザガロ自身だ。だったら当然、約束を破った罰は自分で受けるべきだろう。
「……あの、子爵。なんとかなりませんか? 約束を破ったことについては謝ります。僕が悪かったです。でも、その代償がお金というのはあまりにも……。僕の家が困窮していること、子爵だってご存知ですよね?」
今度は父の同情心に訴えかけようとでもいうのだろうか。
ザガロは哀れさを全面に押し出した表情で、全身を震わせながら両手を胸の前で組み、祈るように懇願する。
「どうかお願いします。我が領地はようやく立て直してきたところなんです。そこへこんな大金の取り立てがきたら……父上はショックで倒れてしまうかもしれません。子爵だって、それは望みませんよね? 何より僕達は、近い将来親族になる間柄ではありませんか。ですからまだ少しばかり早いですが、直に親子になる者として、今回は目を瞑っていただけませんか?」
──呆れた。
義妹の次は、実の父親を引き合いに出して罪から逃れようとするだなんて。
結局彼は、自分の罪を認めることなく他者に罪を擦りつけたり、他人を利用することで罪を軽くし、あわよくば罪をなかったことにする──そんな人間だったんだ。
こんな人を、今までずっと好きでいたなんて。
この人は、本当に私が好きになった人なんだろうか。
あんなにも優しいと思っていた、私に寄り添ってくれていた人に間違いはないのだろうか。




