粗末な食事
「ちょっと! この食事内容はなんなのよ! もっとちゃんとしたものを作ってくれないと、私がお腹いっぱいにならないじゃない!」
テーブルの上に並んだ粗末な食事を、激しい怒りと共にジェニーは手で払い落とす。
黒焦げのパン、少量の野菜が入ったスープ──たったそれだけの食事で、食べ盛りのジェニーの腹が満たされるはずがない。
男爵家として生活を始めた頃は、侯爵家の頃と同じとまではいかないまでも、まだそれほど内容の変わらない食事が提供されていた。
ふっくらとした焼き立てパン、具が豊富に入ったスープ、柔らかく煮込んだチキン──。
それが今はどうだ。平民であった頃とほぼ変わらない粗末なものしか食卓には並べられていない。いや、あの頃はパンが焦げていなかった分だけ、今よりもまだマシだったような気がする。
「いくら侯爵家でなくなったとはいえ、うちはまだ貴族のはずでしょう!? なのにどうして平民より粗末なものを食べなきゃならないの?」
納得できない! と叫ぶジェニーは、その理由が自分自身にあるということに、まったく気づいてはいない。
彼女が家のことを何も手伝わないせいで、男爵夫人がその他の家事と兼任しながらやっているからこそ食事の支度にまで手が回らず、粗末な品揃えになっているのだ。これでもしもジェニーが野菜を切ったりだとか、洗濯をしたりだとかを少しでもしていたのなら、もう一品追加することだって可能だっただろう。
「ジェニーお願い。文句があるなら少しでもいいから家のことを手伝ってちょうだい」
夫人が申し訳なさそうに懇願するも、ジェニーはぷいと顔を背ける。
「私は学園のことで忙しいって言ってるでしょ。親だったら娘のためになんとかしてよ」
「そんなこと言われたって……」
男爵夫妻は顔を見合わせるが、良い解決策などあるわけがない。
使用人を雇えない以上、家族だけでなんとかするしかないのだから。
「ジェニー、わしらも頑張ってはいるんだが、これ以上は──」
「言い訳なんか聞きたくない! 今日のご飯はもういらないから!」
怒って男爵の声を遮ると、ジェニーは食堂を飛び出した。
そのまま廊下を走って自室へと向かいながら、彼女は唇を噛み締める。
家にもっとお金があったら、こんな思いをしなくても済んだのに。
母が貴族に見初められ、再婚すると聞いた時は、これで自分も勝ち組になれると喜んだ。
貧しい平民の生活から抜け出して、豪華で煌びやかな、まるでお姫様のような暮らしができるのだと。
ところが──再婚相手の貴族家は、侯爵家とは名ばかりの貧乏貴族で。使用人は最低限、食事は平民の頃に食べていたものに毛が生えた程度のもの。憧れていたお義兄様は──性格の悪い不細工だった。
ただ、義兄の婚約者が大金持ちで大いに利用価値があったから、それだけは幸運に思えたけれど。
結局のところ、性格だけでなく頭まで悪かった義兄のせいで、見事に婚約破棄された。二人が無事に結婚してくれていたら、自分は一生勝ち組でいられたのに。




