選択の先
ザガロとミディアの婚約が破棄されてからというもの、ジェニーは徹底的にミディアから避けられるようになっていた。
そのせいで放課後の寄り道が──金づるがいないために──できなくなり、毎日のように“ツケ”で買っていた高級菓子も、ツケ払いができなくなったことにより買えなくなった。
仕方なく仲の良い子息達に奢ってもらおうとしたが、彼らのうちの何人かはジェニーが侯爵令嬢ではなくなった途端に周りからいなくなり、残った子息達は「お小遣いが少ないから」と言って、寄り道するのを嫌がった。
ミディアが一緒にいた時は、呼んでなくても勝手に姿を現していたくせに。
体型こそ以前と変わっていないものの、学園に入学してからほぼ毎日カフェへ行き、家で高級菓子を食べてから夕食を食べていたジェニーの胃はすっかり大きくなってしまい、今ではもう、ちょっとやそっとの食事では満足できなくなってしまっていた。
ぐうぅ~……。
頼りない音を立てるお腹を抱え、ジェニーは部屋で大きなため息を吐く。
せめてもう少しぐらい夕食が豪華だったら、私のお腹も満たされるのに……。
両親にいくら文句を言ったところで、食事の量が増やされることも、品数が増えることもない。むしろ減っていくばかり。
これではせっかく貴族になっても、平民の頃と何も変わらない。
「学園の食堂を利用できるのだけは助かるけど……」
それだって、無料ではないのだ。選んだメニューごとにお金を払わなければならないのだが、一食だけでは到底足りず、毎回おかわりが欲しくなる。けれど当然、おかわりするにもお金を追加で払わなければならない。
「家であんなものしか出せないなら、せめてもう少しぐらいお小遣いを増やしてくれればいいのに……」
そう思い、両親に交渉したこともあるが、「淑女がそんなにがっつくものではない」と言って、取り合ってもらえなかった。
「あ~あ……お腹空いたなぁ……」
食べ物のことを考えていたせいで、余計にお腹が空いてしまった。
こんなにお腹が空いていては、ふて寝することだってできやしない。
「どうしようかな……」
謝って夕食を食べさせてもらおうか──と考えるも、その食事内容を思い出すと気分が萎える。
あんなものを食べるぐらいなら、いっそ外に行った方がいいかもしれない。
今ならまだ、営業してるお店だってあるわよね……。
平民街の街並みを思い描きながら、ジェニーはそっと机の引き出しを開けた。
そこには、ザガロとミディアが婚約を破棄する原因になったネックレスが、イヤリングとセットでケースに入れてしまわれている。
二人がこれのせいで揉めだしてからというもの、『お金を払え』と言われるのが怖くて身につけることができず、ずっとしまい込んでいた。
「できれば手放したくなかったけど、背に腹は変えられないわ。それに、どうせ着けられないなら、持っていても仕方ないわよね」
自分を納得させるかのようにそう言うと、ジェニーはそれをケースごとポケットに忍ばせた。
これを換金して、今日は何か美味しいものをお腹いっぱい食べよう──。
そうして、明日からの英気を養うのだ。
何を食べようか考えながら、久しぶりにワクワクした気持ちで、ジェニーはそっと家を抜け出す。
その選択の先に何があるのか、知らないままに──。




