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俺の嫁・リターン

「お?」

「ぬ?」

 赤と青の騎竜が不意に鼻先を上げて宙を見据える。

「「俺の嫁の気配がする」」

 互いに漏らす呟きに目を細めて相手と見詰め合う騎竜達。


 俺の嫁である事には変わりはないのだから、いちいち相手の戯言に目くじらを立てる必要などないのだ。

 万が一、嫁に己が叫んでいる姿を見られでもしたら、みっともない上に雄の沽券に拘る由々しき問題である。

 嘗ては自由気儘に空を渡り一族の中でも雄々しき竜よ、力溢れる竜よと呼ばれたワイルド派な『『俺』』である。

 今では相棒と呼べる主と出会いジェントル派も兼ね備えた『『俺』』である。

 一族の元へ立ち寄れば、雌からはこぞって秋波を送られる『『俺』』である。

 こんな阿呆な雄を相手に取り乱す姿など、とても嫁には見せられない。

 何せ本当に『『こいつ』』は馬鹿で阿呆だからな。

 嫁は『『俺』』の嫁であって『『こいつ』』の嫁ではないという事が未だに理解できないオタンコナスだ。

 ここは嫁の『『お、お、夫』』として余裕を見せ、寧ろ『『こいつ』』を哀れんでやるくらいでなければならん。


 赤と青の騎竜は、同じタイミング、同じ角度で深く頷きあった。

 そして、違いに牙を覗かせた生暖かい笑みを浮かべ、相手に憐憫の眼差しを送り合う。

 そんな薄ら寒い空気が漂う厩舎に二人の魔族が現れた。

 普段、騎竜達の世話をしている魔族達が新たに現れた魔族二人の下へと集まり、何やら色々と喋っているようだが、騎竜達には魔族の言葉が理解できない。

「……あの金の髪をしているアレは何だ? 雄なのに乳を腫らしているが病気か?」

 赤い騎竜が怪訝そうに呟くと、なぜか不思議な事に厩舎の温度が急激に下がった。

「な、何か急に寒くなったぞ?」

 青い騎竜は水の属性であり氷竜とも親戚筋な為、ある程度の寒さに耐性はあるがそれでもガチガチと牙が鳴る。

 寒さに弱い火の属性である赤い騎竜は鼻水が今にも垂れ落ちそうで激しく震えている。

 一度は駆け寄った魔族達であったが、厩舎の温度が下がったと感じた途端に姿が見えなくなっている。

 もう一人、銀色の髪をした魔族は氷柱が出来上がりつつある厩舎内を気にする様子もなく、騎竜達に手にしていた己の主の匂いが残る荷物を括りつけた。

 どういう事なのかと騎竜達が吼えようとしたが、金の髪をした魔族のそれはそれは恐ろしい笑顔にクゥと喉が鳴っただけであった。

 笑顔が怖かったわけではない。

 醸し出している空気に、本能が恐ろしさを感じ取っているのである。

 そんな笑みを浮かべる金の髪をした魔族が別れの挨拶のように軽く手を振ると、地面に浮かんだ魔法陣の迸る光に視力を奪われた騎竜達。

 咄嗟に目を瞑り、瞼をも貫く光が消えて再び目を開けてみれば、騎竜達の目の前には驚いた様子で目を見開いている光竜と風竜の姿がある。




 強制送還されたと気付いた赤と青の騎竜は雄泣きしながら吼えた。

「「俺の嫁ーーーーっ!!」」

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