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-84- 先を越す

 誰もが人より先行したいものだ。ラーメン店の前の長蛇の列に並び待つ心境は、飛び越えて一番前へ出たい…という深層心理が多かれ少なかれ働くに違いない。ただ、人の先を越したからといって必ずしも結果がよくなる・・とは限らないのが社会なのである。逆に、うっかり人の先を越すことで、とんでもないハプニングに遭遇する場合もある。どうぞ、どうぞ…くらいの気分がいいに違いない。^^

 与那峰は旅に出た。その旅は取り分けて急ぐ旅でもなかった。空港に着き、すでに予約した旅客機のチケットを背広から出し確認したときだった。一人の男性客がソワソワ焦りながら受付嬢と話している。

「急いでるんですよぉ~! 一番早い便はないですかっ!?」

「今、便は出ましたから、この次になりますと…予約でいっぱいで空席ががございませんから三時間遅れの便になりますが…」

 申し訳なさそうに受付嬢はその男性客に説明した。

「それじゃ困るんですよっ! 間に合わないから…。弱ったなっ!」

 与那嶺が二人の話を聞きながら耳を(そばだ)てていると、どうも与那嶺の目的地と同じだった。

「あの…よろしかったらこのチケットお譲りしましょうか? 私、急ぎの旅じゃありませんから、三時間遅れでもいいんです」

「そ、それは有り難いっ!」

 与那嶺とその男性客との話し合いは纏まり、与那嶺のチケットは男性客に渡され、支払われたその代金で与那嶺は三時間遅れの便のチケットを購入した。

 その後、与那嶺はゆったりした旅を満喫し、予約したホテルに入ったときである。ホテルのロビーのテレビがガナり立てていた。与那嶺が男性客に渡したチケットの便が故障で緊急着陸したというニュースだった。与那嶺の先を越した男性客は結局、間に合わなかったのである。

 このように先を越したとしても、結果は必ずしもよくはならないようですから、うっかり先を越さない方が賢明ですね。^^


                   完

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