-58- 鳶(とんび)に油揚(あぶらあ)げ
うっかり油断していると鳶に油揚げを持っていかれる・・ということがある。鳶が油揚げが好きなのかどうかまでは分からないが、^^ まあ、そういうことだ。それだけ最近の世の中は世知辛くなってきているのだ。
有名彫像家の美作は三年を費やし、ようやく作品の彫像を完成させようとしていた。
『やれやれ、これでゆったりと正月が…』
完成間近の彫像を右、左と見ながら手直しし、ついに美作は彫像を完成させた。完成した彫像は、すでに買い手がついていて、千三百万円で売却されることが決まっていた。
「先生、完成しましたら、私がお届けいたしますので…」
商談専門のスタッフが美作を窺いながら小声で言った。
「ああ、そうなの…」
商談には興味がない美作は朴訥に返した。専門スタッフは美作の金銭感覚が希薄なことに目を付け、高く売っては半値の値段を美作に報告し、暴利を貪っていたのである。これまで、かなりの富を手に入れた専門スタッフは、この作品を最後に外国へ遁ズラしよう…と決めていた。美作がこの男の悪事に気づいたのは、男が国外逃亡を図ったあとのことだった。鳶に油揚げを持っていかれたあとだったのである。それでも美作は、コレといったダメージを受けず、その後も作品造りに励んでいるそうである。
金に見向きもしない・・これこそが本物の芸術家です。ただ、鳶に油揚げは感心出来ませんが…。^^
完




