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卒業式のプロポーズ  作者: てけてけ
番外編 柳木優一、高校3年生
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限界を超えた先に何がある?

――4月中旬――



 数学Bの小テストが終わり、採点された答案用紙が戻ってきた。

 放課後の会議室には、俺と黒崎と3バカ部長が集まっていた。口の字に配置された長い机。俺は黒板前の中心の席に座る。

 俺から向かって左側に3バカ部長が並んで座り、右側には黒崎が座る。


「さて。数学Bの小テストの結果を聞こうか」


「まずはヒヨコ蔵部の日横から」

「はい! 僕は……62点でした!」


 日横は62点と採点された答案用紙を俺に見せつけた。

 黒崎の平均には到底及ばないが、やれば出来るじゃないか。ヒヨコの未来がかかってると思えばこそ……か。


「次はパスタ部の板利」

「私は……75点よ!」


 板利もまた、75点と採点された答案用紙を俺に見せつけた。

 黒崎の平均まであと少しだが……それでも頑張ったな。究極のパスタへの情熱はそれほど熱いという事だな。


「最後は文芸部の青倉」

「おっす!」


 自信たっぷりの様子の青倉は小テストの結果を俺の前に見せつける。


「じゃーん! 92点だい!」


 92点……ものすごく頑張ったな。かつて、15点というひどい点数で最高得点だと大喜びしてた頃とは違うな。


「ふむ、お前たちの最高得点は青倉の92点か。じゃあ、黒崎」


 無表情だった黒崎。

 そして、黒崎は『ふ』と笑いながら、俺に小テストの結果を見せつけた。


「俺は100点だ」

「「「え?」」」


 100点。

 黒崎の点数に3バカ部長の空気が凍りついた。

 黒崎も頑張っていたか。怪物畠山対策がかかってるんだから当然の結果か。


「えええええ! 嘘だろ!? 野球部に暑苦しい情熱を注ぎ込みつつ100点取るとか……黒崎は天才かよ!」

「青倉。俺も数学Bの小テストで100点だったぞ」

「柳木もかよ! 2人そろって天才とかずるいぞ!」


 天才って……俺も黒崎も3バカ部長に負けないくらいに努力したんだが。


「残念だったな! 俺の勝ちだ! お前たちの部費は野球部で有意義に使わせてもらうぜ」

「くっそー! 皆で一緒に頑張ったのに……ごめんよ! 文芸部の皆! 無力な部長でごめんよおおお! こんな時に桜田がいてくれたらあああ! 桜田カモーーーン!!」

「私の究極のパスタへの情熱が足りなかったんだわ……ごめんねええ! パスタ部の皆あああ!」

「可愛いヒヨコの未来があああ! こんな僕を許してくれええ! ヒヨコたちいいい!」


 3バカ部長は悲痛な叫びをあげたあと、うなだれた。

 勝負とは非情なものだ。どれだけ努力しても負ける時は負ける。

 だが、そのことは青倉がよく知っていると思っていたんだが……

 俺は、小テストの勝負を持ちかけた青倉に少々違和感を持っていたのである。


「黒崎。野球部の部費を上げる前に一つだけ言わせてくれ」


 俺は黒崎に視線を送ると、黒崎も俺に視線を向ける。


「ん? なんだ?」

「部費を上げる目的が『甲子園に行きたい』と言っていたな。部費で機材を揃えて――今年の甲子園は行けそうなのか?」

「ああ。うちはここ最近強くなっている。畠山を抑えられれば、問題ないはずだ」


 弱小野球部だったうちがここ2年で強くなったのは、野球においてトップクラスの実力を持つ青倉の入部が大きいのは揺るがない事実だ。

 怪物畠山のライバルである青倉が機材をどれだけ良くしても、甲子園には行けないと断言したのだから、きっとそうなんだろうな。

 

「約束通り、野球部の部費を上げよう。ただし、もし、県予選で負けたら――来年の部費は元に戻す。コイツらの計画を潰してまで畠山対策の機材を買うんだからな。部の責任をちゃんと果たせよ」

「いいぜ」


 黒崎の返事は非常に軽いものだった。


 ……


 上機嫌で会議室を出た黒崎につられるように、ドンヨリ空気を漂わせている3バカ部長も会議室を出ようと席を立つ。


「青倉。話がある。時間あるか?」


 俺は青倉を引き留めた。青倉は涙目で俺を見る。


「うぐっ! なんだよぉ、柳木ぃ。下手な慰めはいらないぜ……」

「慰めるつもりはない。別の話だ」

「慰めるつもりはないのかよ! お前は見た目通りのヤツだったんだな!」


 ひょっとして慰めて欲しかったのか……


 ……


 会議室には俺と青倉の2人だけになった。

 涙を引っ込めた青倉が頬杖をつく。


「柳木。話って何?」

「いや、その……青倉。何故バッティング勝負にしなかったんだ? 野球を辞めたとはいえ、スポーツ天才肌の青倉なら黒崎に勝つと思ったんだが……」


 青倉の持つ運動神経は非常識である。

 校内のスポーツテストの記録をことごとく塗り替えただけでなく、他の競技も少し練習しただけで現役部員といい勝負ができるくらいに身についてしまう。

 青倉は小テストで100点を取った俺と黒崎を天才と呼んでいたが、それは違う。小テストの点数は俺と黒崎の努力の結果が数字となって表れただけだ。

 天才と呼ぶにふさわしいのは青倉のほうである。


 俺の疑問を聞いた青倉は、ニカっと笑う。


「なんだ、その事。まあ、確かにバッティング勝負なら俺が勝つのは目に見えてたよ」

「わかってたんなら何故?」

「いやあ……俺は野球部を辞めた身だぜ? 黒崎は野球部で、甲子園目指して必死に頑張ってる。バッティング勝負して俺に負けてみ? 野球部のモチベーション駄々下がりだよ」

「しかしな……」

「俺、野球部とは険悪な仲で終わっちまったけど、心の中では野球部に甲子園目指して頑張って欲しいと思ってるんだぜ。限界を超えた真剣勝負で勝った時の喜びをいつかわかって欲しいと思ってるよ」

「限界を超えた真剣勝負……だから小テストの勝負を選んだのか」


 青倉はお互いの全力をぶつけ合う真剣勝負を好むのだな。それが結果として良いか悪いかは別として。

 それが青倉の強さの源……なるほど。怪物投手のライバルだった青倉の真の姿か。


「そういう事。小テストなら黒崎といい勝負できると思ったんだけどな。惨敗だ」


 青倉はスポーツマンらしい、爽やかな笑みを浮かべていた。



――


 青倉との話を終えた俺は職員室の前にいる。

 香澄が無事に退院し、学校に復帰していた。

 結局香澄のお見舞いで俺は顔を出すことはなかった。病院へ行くまではいいのだが、香澄の個室の前に立つと躊躇してしまうのだ。

 

「柊先生。退院おめでとうございます」

「ありがとうございます。種元先生」


 職員室から聞きたくない会話が飛び交う。

 俺は職員室のドアの隙間から中を覗く。


 自席に座っている香澄の横には、種元が立っていた。

 種元は、数学教師でありながら女子生徒に手を出す、とんでもないろくでなしクソ野郎である。

 種元め。さっき女子生徒と体育館倉庫でイチャイチャしてたくせに。馴れ馴れしく香澄に近づくなよ……


「あ、柊先生。今度の土曜日空いてますか? その……」

「パスタの美味しいお店ですね! ぜひ行きたいです!」

「僕が誘う前に返事しないでくさいよ〜」

「あ、すみません……」


 香澄と種元が楽しそうに笑っている。


 種元おおお! 今度の土曜日か! 土曜日……病み上がりで心身共に弱っている香澄に手を出すつもりか! なんてヤツだ! そうはさせんぞ!!


 俺の怒りは限界を超えそうであった。

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