最終話 小説のテーマ
「うわーん! ママー! パパがいじめるー!」
「またパパがいじわるしたの? もう、しょうがないわね」
……
「こら! パパ! 優斗にいじわるしちゃダメよ!」
プリプリした様子のママが俺の書斎に入ってくると、俺は顔につけている怪人マスクをくいっと上げる。
「ヒーローごっこで俺が怪人役になって、怪人の世界の厳しさを優斗に教えてやっただけだが?」
「ヒーローごっこなんだから、ヒーローが勝たなきゃ子供が泣いちゃうでしょ!」
「何を言っている。子供のうちから世間の厳しさを教えないと将来苦労するんだぞ。それに、優斗はママそっくりだからつい本気で負かしたくなる」
「……パパってば……いつまで経っても変わらないのね」
「俺からすると、ママもそれほど変わってないぞ。料理以外は」
息子の優斗は姿も性格もママに似ている。魔がさしていじわるしては、いつもママに怒られる。
柳木病院での事件から5年の月日が流れた。
優一は今年の春に大学院を卒業し、今は毒物研究所で研究医師をしている。
もともと住んでいた実家は取り壊し、現在は去年購入した中古住宅に住んでいる。
いい思い出もあったが、それ以上にろくでもない思い出の多かった実家だ。しかも殺人事件まで起きてしまった。取り壊しに反対する者はいなかった。
――
「ばぁば! こんにちわ!」
「こんにちわ、優斗ちゃん。今日もかわいいわね。うふふふ」
母さんが俺の家に来た。毎週土曜日、俺の家に来ては優斗と一緒に遊んでくれる。
母さんは姉さんの遺影を持って、俺の家の隣のアパートに1人で住んでいる。最初は一緒に住むように言ったのだが、1人で過ごしたいと言われ、断られた。1人でいることに慣れすぎたのか――それとも、俺たちに気を遣っているのか……
父さんが事件を起こした時はショックのあまり、しばらく落ち込んでいたのだが、優斗の面倒を見ていくうちに徐々に明るさが戻ったようだ。だが、母さんの心の傷はずっと残ったままかもしれない。心なしかどこか寂しそうに見える時がある。
「香澄ちゃんにゆうちゃん。優斗ちゃんを連れて、公園で遊んでくるわね」
「パパ! ママ! いってきましゅ!」
「行ってらっしゃい。あんまりばぁばを困らせないでね」
「優斗。公園の砂を口に入れるなよ。すべり台はすべるところから上るんじゃないぞ。あとは……」
「パパ! ぼくそんなことしないよ!」
優斗は目をうるうるさせていた。
――
家の掃除を終わらせた俺と香澄はリビングでテレビを見ていた。
「香澄、聞いたか? 桃園が妊娠したらしい」
「ゆうちゃんってば。今は桃園さんじゃないでしょ。でも、今妊娠したってことは……5人目!? わわわ……麻由さんってば……元気ね」
「俺にとって、桃園は最後まで桃園だ。一郎と桃園ができちゃった婚すると初めに聞いた時はどうなるかと思ったが……案外うまくいってるな」
「ふふふ。あの2人仲いいもんね」
「そういや、一郎は会社で係長になったみたいだな。昔、少年院にいたと知ったら、皆ビックリするだろうな」
「金田くんはドンドン出世するね。このまま社長になっちゃったりして」
一郎が社長……うーん、想像できないな。
一郎夫婦とは家族ぐるみでちょくちょく会っている。一郎と桃園には4人の子供がいて、優斗にとってはいい遊び相手となっている。
一郎は自分の家族とは相変わらず不仲のようだが、桃園の家族とはうまくいっているようだ。悲惨な過去を持つ桃園を引き取った両親だから、一郎のこともかわいがっているのかもしれないな。
しばらくたわいのない会話を交わしていると、テレビから驚きのニュースが飛び込んできた。
『では次のニュースです。文学振興会は本日、芥海賞と直林賞の選考会を都内で開催し、直林賞はあばば氏、芥海賞は桜田さとる氏に決まりました』
俺と香澄は驚きのあまり、テレビを凝視する。テレビには、車椅子に乗った満面の笑みの桜田が映っている。
「悟くん……『名探偵コナゴナ』シリーズが大人気で売れっ子作家なのは知っていたけど……ついに賞もらっちゃったの? すごい」
香澄がボソッとつぶやく。
『桜田先生。今のお気持ちを一言』
『こんなすごい賞をもらえるなんて……光栄です』
『桜田先生は今まで推理小説を書いていたのですが、受賞した作品は初めての恋愛小説なんですよね』
『はい。この小説は僕の大事な友人が成就できなかった恋をせめて小説で成就させようと思って書いたんです。あ、発行部数はすごく少ないので知らない人の方が多いかもしれませんね』
『恋愛小説ということなので、テーマは愛でしょうか?』
『まあ、そうですね。更に言うならば、恋愛小説の愛は基本的に男女間の愛を想像するかと思いますが――僕はキリスト教のテーマである4つの愛を話に散りばめました。これがこの小説のテーマです』
『4つの愛ですか?』
『ええ。男女の愛。友情の愛。家族の愛。そして、無償の愛です』
『なるほど。4つの愛を描くに至って、苦労した点はどこでしょうか?』
『色々ありますけど、そうですねぇ。無償の愛をどう表現するか――これには本当に苦労しました。無償の愛というのは心の奥底から相手を思い、何の見返りも求めずに愛を捧げるという意味なんですが、これを実際に1人の人間で表現すると、そんな人間いるわけないなって思ってしまって――リアリティに欠けてしまうんですよね。だから、僕は無償の愛をあらゆる箇所にばらまきました』
『そうなんですね。……では、最後に本のタイトルと簡単なあらすじをお願いします』
桜田は、ひと呼吸おいたあと、照れくさそうに笑いながら、口を開く。
『卒業式のプロポーズ』
『あらすじは――高校を卒業した主人公は、ずっと思い焦がれていた先生に自分の思いを届けようとする。主人公を待ち受ける結末は……――っと、これから先は実際に読んでみてくださいね』
俺と香澄は顔を見合わせた。どこかで聞いたタイトルとあらすじに不思議な空気が流れる。
「えーと、すごいよね。初めての恋愛小説で芥海賞だなんて。今度お祝いしなきゃね」
「そうだな」
まあ、妄想と創作は自由だ。俺は不思議と笑みがこぼれた。
桜田悟。俺の元クラスメイトであり、大地の幼馴染。
高校の時、桜田にひどい事をしてしまったが――それでも桜田が俺に不思議な縁を引き寄せたと言っても過言ではない。
……
「優斗ちゃん。公園楽しかったねー」
「たのしかったー」
「よかったねぇ。そろそろ家に着きますよー……――って、あらま!」
「どうしたの? ばぁば」
「おほほ。優斗ちゃん。おもちゃ屋さんに行きましょう。何でも買ってあげるわ」
「あ! ばぁば、ぼく、もうこどもじゃない! だっこなんかいらな……あ! パパとママがチュ――」
「あーー! ささささ! 早くばぁばの車に乗ってちょうだい! もう、ゆうちゃんってば。リビングの窓から丸見えよ……」
……
「ゆうちゃん」
「香澄」
香澄が俺の名を呼んだあと、俺も香澄の名を呼ぶ。
俺と香澄は『あの頃』の気持ちを抱いたまま、甘美な世界に包まれるのであった。
――END――
これにて『卒業式のプロポーズ』は完結です。
ここまで自分の妄想にお付き合いくださってありがとうございます!
ブクマ & 評価 & イイね & 感想を書いてくれた方へ、評価をつけてくださって感謝感激です。
人生で初めて小説を書いたのですが、本当に難しいですね。全部文章で説明しなきゃいけないなんて……クッ!
いろいろ反省するべきところは多かったので、次回作で改善できるかなぁ……改善できなかったらスマン。
でも、小説を書いてて楽しかったです。なんたって、自分の妄想をすぐに垂れ流せるのですからね。
ではでは、これにて。次回作でまた会いましょう。




