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おめでとう

 俺は柳木優一。大学6年生――とは言いたいところだが、本日をもって大学を卒業する。


――卒業式、午後3時――


「あ、いたいた! 優一!」


 卒業式が終わり、俺は1人で大学構内を歩いていると、正面から卒業証書の筒を持った、スーツ姿の一郎が俺に近づいてくる。


「はあ、まさか優一と一緒に卒業できるなんて思わなかったぜ。しかも……ちゃんと就職できて良かったわ」


 一郎は大学を卒業したあと、工作機械こうさくきかいメーカーに就職するらしい。

 工作機械を簡単に説明すると――車やスマホなどのパーツを効率的に生産するための機械の事らしい。例えば、自動車メーカーの工場で大量の自動車のパーツを作っているのをよくテレビで見る。その時に使われる機械が工作機械である。


 一度、事件を起こして少年院に入った一郎。

 香澄のおかげでしっかり更生して、今はただの陽キャになった――じゃなくって、まあ、人生楽しく謳歌出来てるようで良かったのかな。


「はあ、やかましいのがいなくなると思うと、寂しいもんだな」


「優一ってホント寂しがり屋だなぁ。香澄ちゃんの言った通りだな。ゆ、う、ちゃ、ん」


「ゆうちゃんて呼ぶのはやめろ! ……香澄め。一郎に余計な事をベラベラ吹き込みやがって」


「ああ、そうそう。俺、麻由ちゃんと結婚する事にしたの。身内だけで式あげるから、お前も香澄ちゃんを連れて来いよ」


「ほう、それはよかった……――って、どういう事だ!? 一郎と桃園が付き合ってたこと自体が初耳だぞ!」


 一郎から衝撃の事実が明らかになった。

 一郎曰く。そもそも2人は付き合ってなかったのだが、3年前あたりから体だけの関係だったらしい。しかも先日、桃園が妊娠したのがわかったとの事。『おめでとう』と言っていいのか。コイツら……大丈夫か?


「あ、『大丈夫か?』て思ってるな。子供が出来た以上、俺たち結婚するしかないだろ。それに子供が出来て、俺は嬉しかったぜ」


「……そうか。とりあえず、おめでとう」


 はっきり言って、不安しかないのだが。とりあえず祝福しておこう。

 そういえば、一郎はいつの間にか女絡みの話を聞かなくなった気がする。俺が振り回していたのもあるんだろうが、一郎はなにかと桃園を呼んでいた事が多かったな。

 なんだかんだ言ってこの2人――波長が合うのかもしれんな。


「優一。このあとどうする? 帰るのか?」

「いや……研究室の謝恩会に出るよ。先生に挨拶したいからな」

「そっか。まあ、俺もゼミの謝恩会出るつもりだからな。じゃあ、あとで連絡入れるわ」

「……わかった」


 一郎は手を振りながら、俺から離れて行った。

 しかし、一郎と桃園が結婚――信じられない。2人はいきなり収まる所に収まってしまったな。


 俺は複雑な気持ちを抱きながら、謝恩会会場へ向かった。


――夜12時――


「ただいま」

「ゆうちゃん。卒業おめでとう」


 家に戻った俺はリビングに入ると、香澄はソファに座っていた。


「まだ起きてたのか。明日も仕事だろ」

「えへへ。ゆうちゃんに『卒業おめでとう』て言いたかったの。私の卒業式の時もお父さんに『卒業おめでとう』て言われて嬉しかったもの」


 ……


「はい、ゆうちゃん。お水」

「ありがとう」


 謝恩会で程よく酔っていた俺は水を一口、ゴクリと音を立てて飲む。

 香澄は穏やかな表情で俺を見る。


「ゆうちゃん、ついにお医者さんになるのね。早いなぁ。ついこの間までは高校生かと思ってたのに」


「ああ。特に6年生になってからの1年間はあっという間だった。医師免許の試験勉強に臨床実習に卒業試験――まあ、無事に医師免許取れたし、卒業もできたしで良かったよ」


 俺は卒業後、柳木病院へ研修医として働く予定だ。柳木病院の院長になるためではない。

 柳木病院の関連施設として、俺の祖父が趣味で設置した毒物研究所がある。研究所に入るには、病院で働きながら大学院に進学して博士号を取得する必要がある。柳木病院では一応、大学院を卒業できるためのサポートはあるらしいが、それでも大変だと聞いた。


「これからはもっと大変になるんでしょ? ゆうちゃんのお母さんを見てると……本当にお医者さんて大変だなぁ、て思う」


「そうだな」


 俺は水を飲みながら、ある事を考えていた。


 ――父さん。


 刑務所の中でしっかり反省して、出所後は母さんとやり直してくれるのであれば、俺はそれで良かった。しかし現実は、反省どころか、ますますおかしくなっている。

 父親だからといってヘタに放置すると、周囲に迷惑をかけてしまう。それどころか母さんや香澄も危うい。父さんの出所後は、母さんの言う通り――精神病院に入院させる以外に道はないのだろう。

 そう考えるようになったら、俺の心は自然と軽くなった。


「ゆうちゃん。今週末の熱々温泉、楽しみね。また行けるなんて思わなかったわ。うふふ」


 温泉旅行を楽しみにしているのだろう、香澄はニヤニヤしている。

 熱々温泉のプロポーズプラン。一郎が教えてくれたプランだ。何とか予約が取れて良かった。予約取るの本当に大変だったんだからな。

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