罰
「クッソー! 誰か俺に人を怨む方法を教えてくれーー!!」
目を覚ました大地は顔を素早く上げる。
ここは……教室? 2年A組――俺が高校の時にいたクラスだ。俺は窓際の1番前の席にいる。教室には誰もいないようで、とても静かだ。
「大地!」
背後から男の声が聞こえた。この声は……
後ろを振り向くと、俺の後ろの席にミナトが座っていた。
「み!? ミミミミミナト!」
「すっげぇ! 本当に大地の夢ん中入れたぞ! 大地の夢の中って空気うま! 景色綺麗だな!」
ミナトは俺を見るや否や、辺りをキョロキョロしている。
ミナトの言ってる事は意味不明だったが――これは夢か。てゆーか、俺の夢の中に空気ってあるのか?
俺の夢の中に出てくる、ということは、きっと俺への怨みをはらしにきたんだろうな。ミナトは俺が殺したようなもんだから。
「ミナト……その……俺を怨んでるなら……どんな罰でも受ける覚悟はある。だから……」
俺は思いっきり目を瞑った。
「え? 罰? あー、えーと……罰かぁ……あ! そうだ!」
どんな罰がくる? 思いっきり罵倒されるか? 針の山を歩かされるか? 釜茹でにされるか? それとも……
うっすら目を開けると、目の前には何故か学校のグラウンドが広がっていた。
「じゃあ、罰としてグラウンド20周な!」
「はあ!? グラウンド20周はキツイわ! はっ! しかも俺、いつの間にか高校指定のジャージ姿じゃねぇか!」
パッと見、グラウンドの1周は約200m、20周だと約4kmだ。
一度も運動部に所属したことのない俺にはきつすぎる。
「大地くーん。どんな罰でも受ける覚悟はあるって言ったのはお前だぞ。あ、ちなみに俺は毎日最低50周は走ってたぜ。休みの日は100周な。20周で文句言うなら……100周にする?」
ミナトはイタズラ小僧のように笑った。ぐっ、このスポーツ馬鹿め。
100週つったら……40km……マラソンじゃねぇか!
「わーった! やりゃあいいんだろうが! やってやるぜ! 20周ぐらい!」
「頑張れー! あ、走る前にちゃんと準備運動しろよ!」
クソ! ミナトめ! なんか、俺が思ってた罰と違うじゃねーか!
――
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……じ、じぬ……」
グラウンド20周を走り切った俺は、グラウンドのスタート地点に倒れ、仰向けになる。
「ランニングだけでヘタれるとは……大地、本当に運動しないんだな」
ミナトはスポーツマンらしい爽やかな笑みで俺に近づいてくると、しゃがみ込んだ。
「はあ、まあ――ぜぇ、ぜぇ……」
これは……夢だよな? なのに、疲れが半端ない。
「どうだ? スッキリしただろ?」
うっ……確かにすっげー疲れたけど、頭の中がシャキッとした。心のモヤが一気に吹き飛んだ。
「ぜぇ、ぜぇ……ハア。あのさ、ミナト……俺のこと、怨んでんだろ? 罵倒したかったら、しろよ」
「怨む? そうだよなぁ――大地は俺を事故死するように仕向けたんだっけ? しかも、動機は柊先生に会いたい。それだけだもんなぁ」
改めてミナトから言われると……心にくる。でも、下手に優しくされるよりはマシだ。
「あのさ、大地。何があった? 確かに大地は、独占欲の強いヤツだとは思うけど――それでも俺は、大地が……すき好んで俺を事故死するように仕向けるようなヤツには、どうしても思えないんだ」
ミナトは大真面目な顔で俺をジーっと見つめる。
ミナト……なんでそんな事を言うんだよ。
「あ! 『何でそんな事を言うんだよ』て言いたげだな。そうだなぁ……例えば――俺……大学受験の時、模擬試験の結果ずーっと『E』判定だったろ? 担任の先生からは大学進学は諦めろって呆れられたし。だけど、大地と柊先生は最後まで諦めずに、俺と一緒に勉強したり、俺に勉強を教えてただろ。それ以外にも他にもたくさんあるけど……まあ、そんなヤツがさ、何の理由もなしに俺を事故死するように仕向けるか?」
「大学合格は――ミナトが必死で勉強したからだろ……筋トレしながら」
「やだなぁ。謙遜するなよ。大地くーん!」
くっ! ミナトめ……コイツ、いつもこんなだから、調子狂うわ……
俺は深いため息をつく。
「はぁ……ミナトには叶わねぇや。とりあえず話すけど……信じる信じないはミナトの自由だ」
俺は、ミナトに話した。俺にかけられた呪いの事を……
――
「呪いねぇ……大地、誰かの怨みでも買ったのか?」
「俺に怨みを抱くとすれば、ミナトしかいないけどな」
「あ、それもそうか。はあ――でも安心した。やっぱり大地は大地だったんだな。俺、嬉しいや」
「ミナト。お前、呪いを信じるのか? 俺の呪いの刻印は、俺以外のヤツには一切見えないんだぜ」
「俺、あの世で『妖怪鬼ばば』と友達になったからな。あの世に妖怪がいるんだから、呪いがあってもおかしくないだろ」
なんだそりゃ。しかも妖怪と友達になったってどういう事だよ!?
俺はミナトがどんどん常識外れの存在になっているように感じた。
「なあ、大地。呪いを消す方法……やっぱり柊先生を憎む以外に無いのか? 俺、正直言ってそんな方法は嫌だな」
ミナトの気持ちは痛いほどわかる。俺も嫌に決まってるさ。
「俺の言った方法はあくまでも可能性だし……かと言って、他に方法は思いつかない」
「そっか……――あ、もう時間だな」
ミナトは空を見上げたあと、俺に笑顔を向ける。
「じゃあ、また明日な! あと、明日はグラウンド20周と腕立て10回やらせるつもりだから、覚悟しとけ」
「はあ!? ミナトの筋トレ教室、いつまでやるつもりだよ!?」
「いつまでって……大地の呪いが消えるまで? 体動かせば何とかなるって」
「ふざけんな! 体動かして何とかなるのはミナトだけだ!」
俺の叫びと同時に、風景がぐにゃりと歪む。俺はその歪みに飲み込まれる。
そして、目の前が真っ暗になった。




