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仰げば尊し

仰げば尊し わが師の恩

教えの庭にも はや幾年いくとせ

思えば いとし この年月としつき

今こそ別れめ いざさらば


互いに むつみし 日頃の恩

別れるる後にも やよ忘るな

身を立て 名をあげ やよ励めよ

今こそ別れめ いざさらば


朝夕慣れにし 学びの窓

蛍の灯火ともしび 積む白雪しらゆき

忘るるぞなき ゆく年月としつき

今こそ別れめ いざさらば


――翻訳


仰ぎ見るほどに尊い 先生への恩

この学校に通い初めて もう何年も経った

思い起こせば とても早く感じた 学校の日々

今まさに別れよう さようなら


互いに仲良き友との絆

卒業した後も忘れない

一人前になり 世に認められ さあ励もう

今まさに別れよう さようなら


朝から夕方まで 慣れ親しんだ学校

蛍のともしび つもる雪

忘れはしない 過ぎし日々

今まさに別れよう さようなら




――卒業式――


 ……


「――――最後になりましたが、これからの皆様のご活躍を心からお祈りし、送辞とさせていただきます。卒業生の皆さま、ご卒業おめでとうございます――在学生代表、医学部医学科4年、柳木優一」


 在学生代表に選ばれた『柳木優一()』は、送辞を送ると、辺りを見渡す。

 俺から見て右の前列に、とある男の姿を確認する。そいつは『佐々本大地』だ。この日、大地は大学を卒業する。スーツ姿の大地は無表情で俺をじっと見つめる。大地は今、何を考えているのだろうか。

 その後、俺は文学部を確認する。そこに『青倉ミナト』の姿は無い。この日、青倉は文学部の卒業生の席にいるはずだった。

 一礼を終え、壇上を降りた俺は無表情で自席に着席した。


 ……


――午後3時――


 卒業式が終わると、卒業式会場の前にはたくさんの学生で賑わっていた。


「あ、柳木くん。今日の夕方、医学部の卒業生と私たちで飲みに行くんだけど、どうかしら?」


 卒業式会場の出入り口から出た俺に、医学部の先輩である宮嶋さんが声をかけてきた。


「遠慮します。夕方は彼女を迎えに行くんで」


 実は今日の朝、俺は香澄を学校まで送って行った。やはり心配である事と――嫌な予感が拭えなかった。香澄が学校に入るのを確認した俺は、そのまま大学へ向かい、卒業式の会場に入ったのだ。


「そう? 残念。じゃあ、香澄さんによろしく言っておいてね」


 宮嶋さんはクスっと笑いながら、俺から離れる。


――


 俺は夕方まで時間を潰すため、大学の近くの喫茶店でコーヒーを飲んでいた。辺りに人はいない。今日は卒業式というおめでたい日だ。そんな日にこんなオンボロ喫茶店にいたいという人はいない。


 しばらくすると『カラン』と客の訪れを知らせる音が響く。


「優一、やっぱりここにいたのか? お前、卒業生と飲みに行ったりしないのか?」


 聞き覚えのある声だ。俺はゆっくりと顔を上げると、そこには卒業証書の筒を持った、スーツ姿の大地が立っていた。


 この喫茶店は、俺と大地が出会った場所。大地のバカバカしい話を嫌ってほど聞かされた場所。俺の姉さんの形見である日記を受け取った場所。そして――大地と決別した場所。


「俺はここが好きだからな。悪いか?」


 大地は俺と向かい合うように席に座ると、かつてのアホみたいな笑顔を浮かべる。


「相変わらず澄ましてんなぁ。あ、ほら――俺、卒業したんだから、何か言うことあるだろ?」

「……卒業おめでとう」

「おう! ありがとな!」


 このやり取り。懐かしい感覚だ。……なんか、調子が狂う。


「なあ、優一。『仰げば尊し』て歌あるだろ? 卒業式の定番ソング。歌詞の意味知ってるか?」


 仰げば尊し。大学の卒業式では歌われなかったが、高校の卒業式で歌ったな。


「作者は不詳だから、歌詞の真意は不明だが……恩師や友人との思い出を胸に旅立つ生徒の心情を表した歌ではないかと――香澄から聞いた」


「そうだな。俺も香澄からそう聞いた。俺は――恩師や友人との思い出を胸に、2人で旅立つ事にしたよ」


「2人で旅立つ? 誰と? どこにだ!?」


 俺は嫌な予感を胸に抱きつつも、大地に尋ねた。大地は満面の笑みのままだ。


「何言ってんの。決まってるだろ。香澄と一緒に、天国か地獄へ旅立つんだよ」

仰げば尊し 歌詞、翻訳引用サイト


引用元:Webサイト『世界の民謡・童謡』

http://www.worldfolksong.com/index.html


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