そばにいるよ
――3日後、夜――
「はあ……やっと落ち着いたな」
「ゆうちゃんお疲れ様」
桜田兄弟の見送りを終えた俺と香澄はリビングのソファで並んで座り、ホッと一息ついていた。
「ねえ、ゆうちゃんって、怖いモノあるの?」
「どうした? 急に……」
「悟くんがね……ゆうちゃん、お化けが出そうな場所にいても怖がらないし、るりちゃんに襲われても冷静だったしで、ゆうちゃんに怖いモノないんじゃないか?――て言ってたわよ」
桜田め……俺を何だと思ってんだ。
「あのな、俺だって人間だ。怖いモノくらいあるぞ」
「え? あるの? 何?」
香澄が目を輝かせる。俺の弱みを知りたいんだな? 香澄のくせに。俺の弱みを知ろうなんざ100年早いわ。
「内緒」
俺はニッコリ笑顔で答えた。
「あ、ずるい! いいわ。いつかゆうちゃんの怖いモノ、見つけてやるんだから!」
香澄は戸惑いの表情を見せたかと思いきや、すねた。
「俺からも質問だ。香澄の怖いモノは何だ?」
俺は香澄に同じ質問を返した。まあ、香澄の怖いモノなら既に予想できてるが。
「内緒!」
香澄は舌をベーと出す。
「ふん。それなら当ててやろう。香澄はお化けが怖いんだろう?」
「え? どうしてわかったの!?」
「いつぞや行った遊園地で、俺がお化け屋敷に行こうとした時、真っ青な顔をしてたからな」
「もう、ゆうちゃんずるい! いつも私の一歩先を行くんだから!」
「はは。俺の観察力を舐めるなよ」
……
俺にとって怖いモノか……そうだな……
俺は香澄をじっと見つめると、香澄は頬を赤く染める。
「香澄、高校の卒業式を覚えてるか?」
「ええ……覚えてるわ」
「香澄は大地からプロポーズ受けた。俺はその瞬間を木の陰から見ていた」
「あ、そういえば……ゆうちゃんもあの場所にいたのよね。以前に聞いたわ」
「もし、あの時香澄が大地のプロポーズを断り続けていたら、香澄は今頃どうなっていただろうな……俺はそんな事を考えてたよ」
「え? ひゃ!」
俺は香澄の肩に手を伸ばし、俺に引き寄せるよう香澄の頭を俺の膝の上に転がした。俗世間で言う、膝枕てヤツだ。香澄は俺の膝側に顔を向けている。
「ひょっとしたら――俺の前で、香澄の手脚を切り落されていたのかもしれない……二度と香澄に会えなくなっていたのかもしれない……今はそんな恐ろしい事を考えてしまうんだ」
俺は香澄の頭を丁寧に撫でる。指の隙間から香澄の髪の毛がサラサラと流れていく。
「私は何があってもゆうちゃんのそばにいるわ。言ったじゃない。私はゆうちゃんのお姉ちゃんになりたいって」
「……そうだな。そうだったな」
ほのかに感じる香澄の体温が、とても心地良かった。
「あ、そういえば! 高校の卒業式の時、私と佐々本くんの事木の影から見てたって言ってたけど、あの場所で何か用事でもあったの?」
せっかくいいムードだったのに、香澄がそれをぶち壊した。くっ、そこは流せよ。
「内緒」
それは、俺が大学を卒業する時に言おう。
「また内緒なの? お姉ちゃんに教えなさい! ゆうちゃんのケチ!」
香澄は俺の膝の上で仰向けになると、頬を膨らませる。
「自惚れるなよ。香澄ごときに俺の姉が務まると思ったら大間違いだ」
俺は香澄の膨らんだ頬を潰すと、香澄は『ぶ』と声をあげた。
「たっだいまー! ゆうちゃん! 香澄ちゃん! あ、ゆうちゃん、浅浦町に行ったんだって? お土産ないのぉ?」
仕事を終えた母さんが帰って来た。
突然の母さんの帰宅に俺と香澄は固まった。
「あら? あらあら? おほほ、ごめんなさいね。いいムードを台無しにしちゃったわ。あ、母さん、用事思い出しちゃった」
俺と香澄の様子を見た母さんは、後ずさる。まさかこのタイミングで帰ってくるとは……
「あ、おばさん! えっと……これは……」
――バタン。
母さんは再びどこかへ出掛けて行った。




