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簡単じゃないのよ

――翌日、夕方――


「うーん、電波の発信源はこの辺のはずなんだがなぁ……」


 大地()は今、住宅街を歩いている。場所は俺の住むアパートから程よく遠い場所だ。電車で3駅分といったところだ。



 昨日、俺は卒論で自作した電波可視化機器を使って、画面を眺めていた。スマホやらWi-Fiの電波を辿って優一の家を特定したかった。正直言うと、骨が折れそうだ。電波って至る所にいっぱい飛んでるし、その中から特定の一つに絞るのはツラい。

 スマホのGPS位置情報は役に立たない。優一と香澄はスマホを変えたのかもしれないな。連絡すら取れないし。

 まだ優一と仲良かった時、家を調べておけば良かった。


 俺がそう思っていた時――一つだけ、気になる電波が見つかった。……いや、これは電波なのだろうか? そこいらで売っているような機器では絶対に捉えられないものだ。その電波を探ってみると、それは俺の実家周辺の森まで繋がっていた。そして、電波の発信元は俺の住むアパートから少し遠い住宅街。この電波は一体何なんだ? 俺は妙に気になった。



「――とは言っても、発信元を正確に特定できなかったし、さすがにこれだけの家がありゃあ、わかんないな」


 俺は諦めて帰ろうとしたその時――一台の、白い軽自動車が信号待ちしているのが目に入る。その瞬間、俺の時間が止まった。


 ――香澄?


 その車は、香澄が運転している車だった。俺は香澄に見つからないように身を隠しつつ、その車から目を離さなかった。車が小道へ曲がるのを確認すると、俺も同じ小道へ曲がる。

 

「ただいま」

「お帰りなさい、先生」


 香澄の声と悟に似た男の声がかすかに聞こえた俺は、慌てて近くの電柱の影に隠れる。電柱から二軒ほど斜め向かいに香澄の乗っていた白い軽自動車があった。更に俺は目を凝らして表札を確認する。表札は『柳木』と書かれていた。柳木――まさか……あれが優一の家か。


「香澄……ここにいたんだ」


 俺は笑みが溢れた。どうしよっかなぁ。家に突撃するか? いや、家には悟の弟のカケルがいるはずだ。アイツは優一以上のクセ者だ。ミナトの葬儀の時はマジで焦った。香澄を爆破するとか抜かしやがった。最初はただの脅しかと思ったが、ヤツには隙が無い。本当に爆破するつもりなんじゃないかと思ってしまった。兄の悟と同じ姿をしているのに、中身は大違いだ。

 ミナトの葬儀の時、カケルは悟を探しているような事を言っていたな。恐らく悟を見つけるまで、ここを離れないだろうな。


「困ったなぁ。悟がいなくなったら、るりが悲しむだろうし。だからと言って、俺にはカケルをどうこう出来る力はないしな……」


 ……まあ、香澄の居場所がわかったことだし、一旦俺のアパートに戻るか。俺はその場を離れた。


 ……


――夜――


 ――♪♩♬


 優一()は宿の個室部屋で本を読んでいると、電話が鳴り出した。桜田弟からだ。


「あ、もしもし柳木くん?」


「ああ、桜田弟か。待ってたぞ」


「今日の調査報告するよ。今日一日森を探索してみたけど、るりちゃん以外、誰も森に入っていなかったみたいだよ」


「そうか。そういえば……森の中に野生の動物は出たか?」


「動物はまだ冬眠中だね。2月に来て良かったのかもね」


 野生のクマとか出てきたら、間違いなく餌にされるからな。そこは確認しとかないと。


「それは良かった。じゃあ、明日行動する」


「お願いするよ。もし、身の危険を感じたら――兄さんの事は考えなくていいから、真っ先に逃げてね。――と、今日は先生起きてるから変わるよ」


 香澄起きてたのか。電話からボソボソと声が聞こえたあと――


「ゆうちゃん。元気?」


「観光ばかりで疲れたよ」


「クス。大学生はいいわね。……て、明日から悟くんを探すんでしょ? その……危なくなったらすぐ逃げるのよ」


「わかってる。桜田弟からも言われた」


「クス。じゃあ、おやすみなさい」


「おやすみ」


 もうすっかり『おやすみ』のやり取りに慣れてきた。しかし、このやり取りがいつまで続くのだろうか……たまに不安になる。

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