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あの人はどこからやって来た?

 俺は柳木優一。大学4年だ。

 俺と金田と……ついでに桃園の3人は浅浦町に遊びに……来てないぞ。



――2月末――


「柳木! 麻由ちゃん! 見ろよ! 海だぜ!」

「キャーン♡ キレイ!」

「お前たち。遊びに来たんじゃないんだぞ。気を引き締めろ。あと桃園。俺はお前を呼んだ覚えはないぞ」

「いいじゃないの、こういう時くらい。柳木は頭が硬いんだから」


 頭が硬くて悪かったな。

 俺たちは浅浦町の無人駅から出てきたところだ。海を見るのは久しぶりだ。高校2年の時以来か。


「あれ? 柳木、どこ行くの?」

「ひとけのない所だ」


 俺は先にやらなきゃいけない事がある。まずはひとけのいない場所を探さないといけない。金田と桃園は大人しく俺について来る。


――


「ちょっとぉ、柳木センパイ。こんな何も無い所で何をするつもりなんですかぁ?」


 俺が行き着いた場所は――無人駅の裏側だ。ここなら人がいない。


「桜田弟から頼まれた事があるから、それをやるんだ」


 俺は旅行バッグからある物を取り出す。


「柳木、それ……ドローンか?」

「ああ。桜田弟が魔改造した『超小型偵察ドローン』だそうだ。俺の家からでも遠隔操作が可能らしい」

「遠隔操作できんなら、柳木ん家から飛ばしてもいいんじゃないの? なんでわざわざここまで持って来るの?」

「俺も同じ事言った。どうやら、外でドローンを飛ばすには役所に申請しないとダメらしい」

「へぇ。面倒なのな」


「まあ、カメラ付きドローンもあるからな。盗撮といった犯罪防止のためだから仕方ないんだろう。俺の家の周辺は住宅街だからドローン飛ばしたらまずいだろ」


「やだぁ、盗撮だなんて。簡単に犯罪が可能なんですねぇ」


「今回は申請する時間が惜しいから、現地まで持って行って、人目のつかない場所で飛ばさないといけないんだ」


 俺はドローンを地面に置き、スイッチを入れる。そして、スマホを取り出し、桜田弟に電話をかける。


「桜田弟。ドローンのスイッチを入れたぞ」

「りょーかい、柳木くん。じゃあ、飛ばすね」


 ドローンから小さな電子音が鳴りだすと、プロペラが静かに回る。プロペラの回転が安定すると、ドローンは宙を舞い、森の中へと消えていく。


「ありがとう、柳木くん。まず、僕がドローンを使って、兄さんの大体の居場所を探ってみるよ。それまで適当に遊んでて」

「わかった」


 俺はスマホを切る。


「センパイ。カケルさんは何て?」

「連絡があるまで、しばらく遊んでろだって」

「やったぁ♡ 早く宿に行こうよぉ。そんで荷物置いたら、観光行こ♡」

「あのな。俺たちは遊びに来たんじゃ……」

「まあまあ。どうせ暇なんだから、いいでしょ」


 俺は金田に背中を押され、宿へ向かう。まあ、たまには羽根を伸ばすのも悪くないか。



――


 俺たちは海を眺めながら、歩道を歩く。金田と桃園は楽しそうにお喋りをしている。しかし、この町はコンビニもなければ何もないな。香澄の実家といい勝負だ。


 反対側の歩道にて、1人の少女が歩いているのが目に入った。

 その少女は、黒髪のお下げで年は高校生くらいだろうか。身長は大体155くらい。どこか幸が薄そうな綺麗な少女であった。


 ……洋子さん?


 俺は少女を一目見た瞬間、洋子さんの面影が重なった。そんな馬鹿な……洋子さんの子供は俺の姉さんだけのはずだ。では、何故あの少女は洋子さんに似ている?

 洋子さんの親戚の子供であろうか?


 考えてみれば、俺は洋子さんの出身をちゃんと聞いた事がない。俺が小さい頃、海が見える町から来たとしか聞いていない。しかもだ。俺は洋子さんの苗字すら思い出せない。昔、聞いた気がするのに……



――


「なあ、柳木ぃ。本当にここに桜田が捕まってんのか? パッと見、何も無い平和な港町にしか見えないぜ」

「そうだな。俺も今、同じ事を考えていた」

「すっごー! いい眺め♡ あ、海の風景写真撮っとこ。あとでインスタにアップしなきゃ」


 宿に荷物を置いてきた俺たちは、浅浦町を観光している。今はまだ寒いから、観光客は数えるぐらいしかいない。夏ならば……海水浴場もあるし、かなり賑わうだろうな。


「なあ、柳木ぃ。さっきから浮かない顔してるけど、何かあった?」

「……実は宿に向かってる途中、昔のお手伝いさんによく似た女の子を見かけたんだ」

「ねぇねぇ、この銅像なんか変な顔してない? おっかしー!」

「ええい! うるさいぞ! 桃園! 静かにしてろ!」


 俺は桃園に怒鳴ると、桃園は頬を膨らませる。


「昔のお手伝いさんかぁ。確か……洋子さんだっけ?」

「ああ」


 ――俺は昔を思い出した。なるべく、思い出さないようにしていたのに……



◆◆◆


――14年前――


「洋子さん。どうして洋子さんは僕の母さんじゃないの?」


「優一くん。それは、私が優一くんを産んでないからですよ。私が優一くんのお母さんになれたらいいのに、ていつも思ってますよ」


「本当?」


「やめて! 気持ち悪い!」


「月子ちゃん、どうしたのですか?」


「優一に変なこと言わないでください! 優一のお母さんはお母さんだけです! 貴女なんか……母親の資格はありません!」


「月子ちゃん……どうしてそんな酷いことを言うの? またお父さんからお仕置きされるわよ……」


「酷いのはどっちかしら……むしろ、私は優一のお母さんの子供でいたかったわ」


「姉ちゃん、どうして洋子さんに酷いこと言うの?」


「優一、私の言う事が信じられないの?」


「だって、僕の母さんはいつも家にいないんだよ? それに比べて洋子さんは、僕や姉ちゃんの面倒をよく見てくれてるよ? どうして、母さんは家にいないの?」


「前にも言ったじゃない。お母さんは、お仕事をしているの。私たちのために」


「父さんも母さんも――授業参観の日や、運動会とか……ずっと来なかったじゃん! 同じクラスの子が言うんだ! 僕の両親がずっと来ないのはおかしいって……僕の両親はおかしいって……両親は僕を嫌いだって……」


「そうですよ、優一くん。アナタは両親から見放された、哀れな子です。だから、私がずっとそばにいますよ」


「な……やめて! 優一! その女の言う事を聞かないで! お願いよ!」


「うるさい! 姉ちゃんだって母さんから嫌われてるじゃないか! どうして母さんの肩を持つんだよ!」


「優一……洋子さんだけはダメよ」


◆◆◆



 そういえば、姉さんとの会話はこれが最後だった。姉さんは、俺よりも母さんや洋子さんの事をよくわかっていた。

 洋子さんは、俺をどうするつもりだったんだろうか? 少なくとも、俺は洋子さんの子供ではない。もし、洋子さんがずっとあの家にいたら……俺は、どうなっていただろうか?

 なんとも言えない話だ。姉さんの死をキッカケに、洋子さんは遠ざかった。



――夜――


 ――♪♩♬


 俺は宿の個室部屋で本を読んでいると、電話が鳴り出した。桜田弟からだ。


「あ、柳木くん? 森の中を探索していたら、怪しい箇所を見つけたんだ。ドローンから収集した情報をもとに、地図を送るから、明後日行ってきて欲しいんだ」


「明後日? 明日じゃダメか?」


「今日の森の探索だと、るり以外の人は見ていない。他にも人が森を歩いていないか、確認したいんだ。人が多いと、柳木くんたちが危ないからね。だからもう少しだけ時間が欲しい」


「わかった。――香澄は大丈夫か?」


「うん。元気だよ。あ、明日は仕事で朝早く起きないといけないみたいだから今は寝てるけど……」


「そうか。それならいいんだ」


 少しでも声が聞ければと思ったが……寝ているのなら、そっとしておこう。


「じゃあ、地図と、ドローンで撮影したるりの写真をあとで送っておくよ」


 電話を切ってから数分した後、桜田弟から地図と写真が送られてきた。俺は写真を見て驚愕した。

 るりというのは――今日、俺が見た……洋子さんによく似たあの少女だった。

 この少女がるり……大地の妹。本当にあの人に似ている。もしかして、洋子さんは大地の親戚……なのか?


 俺はしばらくの間、ただ、呆然としていた。

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