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奇妙な再会

「久しぶりだね、柳木くん。元気にしてた?」


 優一()と再会した桜田は、爽やかに笑う。

 穏やかな話し方と線の細さは相変わらずだ。しかし、肉体は高校の時よりたくましくなっている。


「あ、ああ……桜田は何しにここへ?」


 まさか桜田が帰って来るなんて……想像すらしてなかった。俺は気まずい思いで一杯だった。俺は高校の時、桜田へいじめをするように、金田へ指示をした。桜田はその事を知らない。


「会いたい人に会いに来たんだ」


 桜田の会いたい人……それは……


「青倉と柊先生、大地か?」


「柳木くん、大地とミナトくんを知ってるの?」


 桜田は驚きの表情を見せた。俺は、コクリとうなずきながら、桜田から視線を逸らす。

 大地と青倉の事をどう説明したらいいのか。バッドタイミングで帰って来やがって。


「そうなんだ。 みんな元気にしてる?」


 何も知らない桜田は、笑顔である。桜田に話すか。今までの事を……俺は口を開きかけると――俺のスマホが鳴り出す。金田からだ。


「失礼」


 俺は電話を取ると、金田は震えた声で――


「柳木? 大変だ! 青倉が……鉄骨の下敷きになって……」


「青倉が鉄骨の下敷きに?」


 俺の反応に、桜田が『え?』と驚く。


「ああ。それで、青倉は即死だって……」


「即死……」


 俺は頭が真っ白になった。青倉が死んだ。ついこないだまで、一緒になって話していたあの青倉が――茫然とした俺に桜田が近づいてくる。


「柳木くん。電話貸してくれる?」


 桜田が無表情で、俺に手を差し出した。


「桜田。相手は金田だぞ? いいのか?」


 金田の名前を聞いた桜田は、一瞬だけ手をピクとさせたが……『構わない』と言わんばかりにうなずく。


「もしもし? 久しぶりだね。金田くん」


 俺からスマホを受け取った桜田は、電話越しで金田に話しかけた。


「え? 誰? どこかで聞いたような……」


「僕は、桜田悟だよ」


「ぶえ!? さささ桜田!? 桜田って、あの桜田!?」


 金田の間抜けな声がスマホから漏れ出る。そりゃそうだろう。電話の相手は……あの桜田だからな。


「金田くん。落ち着いて。とりあえず、現場はどこ? ……うん、……うん。わかった。今、そっちに向かうよ」


 桜田は電話を切り、俺にスマホを返す。相手が金田だというのに、桜田は妙に落ち着いている。しかも、現場の場所までしっかりと聞く。


「柳木くん、時間ある? これからミナトくんの事故現場に行きたいから、案内して欲しい」


 桜田は引き締まった表情で俺を見る。俺の知っている桜田はこんな表情をする男ではなかった。いつも穏やかで、悪く言えば弱々しい。それが俺の、桜田に対する印象だ。


「ああ、少し遠いから……タクシーで行こう」



――15分後――


「あ! 柳木! ……と桜田」


 青倉の事故現場にたどり着いた俺たちは、金田と合流する。事故現場は工事中の建物の前である。青倉が下敷きになったと思われる場所の周囲には野次馬が集まっている。桜田は空を見上げると――


「ねえ、金田くん。鉄骨って、あそこから落ちて来たのかい?」


 俺も空を見上げる。鉄骨が落ちたと思われる部分はかなり高い位置にあるようだ。


「ああ、そうだと思う」


 桜田はしばらく空を見つめたあと、金田に視線を向ける。


「あの高さからなら……ミナトくんの動体視力や反射神経、運動神経をもってすれば、簡単に逃げられたハズなのに。ミナトくんはどうして逃げなかったのかな?」


 桜田の言う通りだ。青倉の運動能力は通常の人のそれよりも遥かに優れている。簡単に鉄骨の下敷きになるなんて考えられない。


「ああ、それなら、目撃情報があって、一緒に歩いていた男の人を助けるために突き飛ばしたらしい。今、そいつは警察署で取り調べを受けていて、ここにはいないが……まあ、一緒にいた男の人ってのは、恐らく佐々本だ」


 金田は周囲から聞いた情報を話した。それを聞いた桜田は――


「それでも、即死は免れたんじゃない? ミナトくんは大怪我したかもしれないけど……ミナトくんの精神力は他の誰よりも強いから。そんな彼の精神を乱す程の事が――鉄骨が落ちるまでの一瞬の間に起きたって事かな」


 悲しそうな表情で冷静に淡々と分析した。更に――


「大地がミナトくんに何か吹き込んだのかな」


 俺と金田は思わず、桜田を凝視する。事情を知っている俺や金田なら、大地が何かしたんだろうかと推測できるのだが――何も知らない桜田が、金田の話だけで俺たちと同じ推測をたてた。


「桜田。実は俺も同じ考えなんだが……どうして、何も知らない桜田が……」


 桜田は俺に顔を合わせ、クスっと笑う。


「僕がここに来た本当の理由は、ミナトくんや柊先生の無事を確認したかったんだ。本当はもっと早く来たかったけど……僕は僕で事情があってね。ようやくここに帰って来れたんだ」


 桜田の会いたい人に、大地の名前があがらなかった。まさか……


「まさか、桜田も何か面倒な事を抱えているのか?」


 俺の問いに桜田はコクリとうなずく。斜め掛けのバッグから1つの封筒を取り出し、読んで欲しいと言わんばかりに俺に差し出す。

 俺は封筒を受け取ると、封筒から取り出した数枚の手紙に目を通す。

 これ、女性からのラブレターか? 手紙には愛の言葉がつらつらと、大量に、びっしりと、惜しみなく書かれてあった。比率でいうと愛の言葉が9割、近況報告が1割だ。

 そして、手紙の最後には赤い色の絵の具で描かれた不気味な印がある。俺はこの手紙を見て、得体の知れない恐怖を感じた。


「何だ? この手紙は? 呪いの手紙か?」


 手紙の内容にゲンナリした俺を見た桜田はポツリとつぶやく。


「大地の生まれ育った故郷にはね、こんな古い言葉が残されているんだ。直訳すると『愛しの人。鎖に繋いで閉じ込めておくべし。よそを向く前に』てね」


 俺はその言葉にデジャヴを感じた。2年くらい前――大地が俺に言った言葉を思い出した。



『俺はガキの頃からずっと親父に言われ続けてきたんだ。本気で惚れた女が現れたらすぐに結婚しろと。それが佐々本家のしきたりだと。だから、俺は香澄ちゃんと結婚したいんだ!!』



「その手紙の送り主は、大地の妹るりちゃんだよ。赤い色の印はね、愛しの人を鎖に繋いで自分の中に閉じ込める事を示すんだってさ。柳木くんが読んでいる手紙は、まだマシな方だよ。本当にひどい時は……とても見せられないよ」


 桜田は苦笑いで話した。

 桜田は大地の幼馴染だ。だから、桜田に今までの事を話すのをためらったが……桜田も香澄と似た状況にいるのであれば、話は早いし心強い。桜田は大地と同じ町に住んでいたから、桜田にしか知らない情報がある。俺は桜田を信頼する事にした。


「桜田。俺の家に来ないか? 桜田に聞きたい事がたくさんあるんだ」

「柳木くんの家に? どうして?」

「桜田が今一番会いたい人――その人は今、俺の家にいる」


 桜田は『え?』と少し驚きを見せた。



――夜9時――


「ただいま、ゆうちゃん」


 香澄が家に帰って来た。俺は香澄を出迎える。


「おかえり。香澄に会いたい、て人が今家にいるんだ」


 香澄は『え?』と顔をキョトンとさせたあと、リビングに向かう。


「あ! ……悟くん!」


 リビングのソファに座っている桜田を一目見た瞬間、香澄の表情が変わった。その顔は、懐かしさと嬉しさが入り混じったような顔だ。桜田も香澄の姿を見た途端、爽やかな笑顔を浮かべた。


「お久しぶりです。柊先生。お元気そうで何よりです」


「ねえ、ゆうちゃん。金田くんと……桃園さんもいるけど、これは一体どういうこと?」


「おかえり、香澄ちゃん!」

「お邪魔してまーす!」


 いじめ首謀者の俺といじめっ子金田といじめられっ子桜田が一緒にいる――違和感あるよな。あ、桃園はオマケだが。


「香澄。その……桜田との再会で喜んでる中、申し訳ないが……悲しい知らせがあるんだ」


「ゆうちゃん。ミナトくんのご両親から私宛に学校に連絡来たの。ミナトくん、亡くなったのね。それで……限られた人だけで葬儀をするそうだから、私に出て欲しい、て連絡があったのよ」


 香澄はすぐにソファに座ると、俺は床にクッションを敷き、座る。


「私、ミナトくんの両親とは面識があるの。ミナトくんが進路で両親と揉めた時、ミナトくんから相談されて……それで、ミナトくんのご両親と色々話したの」


 俺の知らない間にそんな事が……香澄って裏で色々やってんだな。


「うっ、うっ、青倉センパイ」


 桃園は両手で顔を覆い、大泣きしている。桃園は野球部のマネージャーだ。青倉とはそれなりに付き合いはあった。


「青倉……」


 金田は視線を落とした。金田と青倉は元加害者と被害者という、奇妙な関係だが、大学で再会してからは……そこそこ良好な関係になりかけていた。


「ゆうちゃん。ミナトくんの葬儀だけど……」


 香澄にとって、青倉は大切な生徒の1人。青倉の最後を見届けたい気持ちが強いのは当然だ。だが――


「香澄。こんな事を言うのは、とても心苦しいが……大地も葬儀に出るはずだ。大地は青倉と――高校の時からずっと仲が良かったから」


 俺は視線を落とし、香澄に俺の懸念を伝える。


「柊先生。ミナトくんは大地を庇ってそのまま鉄骨の下敷きになりました。本来のミナトくんなら、即死ではなく、大怪我で澄んだはず。大地は、柊先生をミナトくんの葬儀に参加させるために……ミナトくんを事故死させた可能性が高いんです」


 続いて、桜田が淡々と話した。この中で青倉と一番仲良いのは、桜田なのに……なぜ冷静でいられるのか。桜田は転校してからどんな人生を送ってきたんだ?


「そんな……ミナトくんの最後も見れないなんて……」


 香澄が視線を落とすと、頬に一粒の涙がポロっと溢れたのが見えた。本当なら、香澄に青倉の最後を見届けさせてやりたい。でも――香澄に危険が及ぶ可能性がある以上……どうする事もできない。俺も一緒に行ければいいのだが……青倉の両親はごく限られた人だけの参加を希望しているはずだ。青倉の両親からすると、俺はお呼びではないだろうし、仮に行ったとして、どう説明すればいいものやら……


 俺が考え事をしていると、香澄は穏やかな笑顔を俺に向ける。


「ゆうちゃん。私、ミナトくんの葬儀に行くわ。最後に、ミナトくんを笑顔で送りたいわ」

「何を言ってるんだ! 葬儀に行ったら……香澄に危険が及ぶんだぞ! わかってるのか!?」


 俺は香澄を必死で引き止めた。自ら、危険を冒しに行くようなものだ! そんな所に……香澄を行かせられるか!


「ゆうちゃん。あのね。私、佐々本くんと別れたと言っても……ゆうちゃんや私のお父さんが強制的に終わらせただけ。私から直接別れを言ったわけじゃない。だから、佐々本くんはどこか心の中に私の影が残ってるのかもしれない」


 香澄は、俺の目をしっかりと捉え、しっかりとした口調で話す。


「私が直接、佐々本くんに別れを言わないとダメなんじゃないかって思うの」


 いつもの強情な香澄だ。まったく、香澄はいつもいつも――どうしてこうなのか……


「いんじゃね? 柳木」


 金田が発言する。


「いやぁ、なんかさ……香澄ちゃんて、お城に引きこもっているお姫様、というより……お姫様を守る騎士タイプだよな。なんか、いつもの香澄ちゃんが戻ってきたってカンジで懐かしい気持ちになったわ」


 金田は悪い顔で笑う。香澄が騎士って……随分と頼りない騎士だな。お姫様てのは――生徒の事か?


「しかしな……」

「柳木くん。僕もミナトくんの葬儀に出るよ。それなら文句ないでしょ?」

「桜田が?」

「僕もミナトくんのご両親とは面識があるんだ。さっき、僕からミナトくんの家に電話して――ご両親から是非、て言われたよ」


 桜田は笑顔だったが、どこか悲しそうであった。やはり、桜田も青倉がいなくなって悲しかったんだな。



――


「そーだ! 柊センセイ!」


 桃園が香澄を呼ぶ。


「いざという時のためにぃ、センセイ自身でも身を守れるようにした方がいいと思いますよ♡」


 お、桃園にしてはいい事を言うな。


「そうね。桃園さん。私、護身術でも習いに行こうかしら」

「それだと時間かかっちゃいますよ。アタシ、いいもの持ってますから、センセイにあげますね♡」


 そう言って、桃園がカバンから取り出したのは――


「ジャーン! 電気マッサージ機!」


 桃園は電気マッサージ機を取り出すと、スイッチを小に入れ、香澄の肩に乗せる。


「わわわ。桃園さん。なんか刺激がすごい……」


 肩に電気マッサージ機を乗せられた香澄は、刺激の強さに戸惑う。


「大丈夫ですよぉ♡ 刺激がすごいのは最初だけですぅ。そのうちすっごく気持ちよくなりますよ♡」


 桃園が言うと、違う意味に聞こえる。


「それで桃園さん。これで本当に私自身で身を守れるのかしら……」


「ええ。バーッチリですよぉ。試してみますか? じゃあ、柳木センパイ。ちょっとここに立っててください」


 なんで俺が……と心の中で思いながら、俺は桃園の言う通りにした。


「じゃあ、電気マッサージ機はセンセイが持っててください♡ あ、これが強スイッチなんで、押してください」


 香澄は電気マッサージ機を持つと、強スイッチを押す。電気マッサージ機からヴィーーと激しく細かい振動音が聞こえる。


「はい。じゃあ、マッサージ機の先っちょの丸いヤツを、柳木センパイの股間に当ててみてください」

「こう? えい!」


 香澄が電気マッサージ機の先を俺の股間に押し当てた。


「――ッ!! アギャーーーーー!」


 俺は、人生で一度も発した事のない悲鳴をあげ、股間を抑えながら、うつ伏せで倒れこんだ。


「すごい! 効果絶大! ……て、ゆうちゃん! 大丈夫!?」


 大丈夫じゃない。電気マッサージ機の激しすぎる刺激で股間が……

 瀕死の俺は、桃園に重要な質問をする。


「おい、桃園。その電気マッサージ機……まさか……使用済みじゃないだろうな?」


「心配はご無用ですよぉ♡ ちゃーんと消毒しておきましたぁ♡」


 何が心配はご無用だ! 消毒ってどういう事だ!? 使用済みって事じゃないのか!? そんないかがわしい電気マッサージ機を香澄に渡すな!


「あの、柊先生」


 ドン引き顔の桜田が香澄に近づくと――


「先生にその電気マッサージ機を使わせないよう……僕が全力で守ります」


 桜田の言葉から力強さが感じられた。

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