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最後の晩餐に幼馴染は来ない

――2月中旬、夜12時――


「絵梨奈……ごめん」


 ミナト()は自分の部屋のベッドに横になり、スマホの画面を眺めていた。画面に写っているのは……絵梨奈とのツーショット画像である。

 俺はさっき、絵梨奈に電話したところだ。内容は――別れ話だった。もちろん、彼女は泣いていた。心が痛くなった。でも、彼女は俺のワガママを聞いてくれた。絵梨奈は、俺の理想の彼女だ。


 俺はまた電話をかける。相手は――大地だ。


「大地? 明日暇? 話がしたい」


「ああ、いいぜ。何時くらいがいい?」


「じゃあ、昼くらいに……街中のハンバーガーショップで」


「OK。遅れんじゃねぇぞ」


「大地も」


 電話越しの大地は、いつも通りのノリだ。でも、大地は朝比奈さんにひどい事をした。柊先生にも……


 俺は、本棚から高校の卒業アルバムを取り出す。そして、机に座り、それを眺める。部活写真、個人の顔が映った写真。俺や大地、それに柳木に柊先生……皆まだ若い。懐かしい。桜田は転校したから、写真は少ない。あと、金田は少年院に行ったから……写真はない。


 俺には気軽に話せるダチが少ない。俺が野球で有名なせいか――皆、俺から距離を取る。

 そんな中、俺を普通の人として接してくれたのは、大地と柊先生、あとは桜田だ。今は、柳木と金田もそうだな。


「桜田……今、どこにいるんだよ? お前なら……こういう時、どうする?」


 卒業アルバムを見ているうちに、俺は、桜田を思い出した。桜田は、大地の幼馴染だ。誰よりも大地を知っている人間だ。だから、大地の裏の顔も知っていたんじゃないか? 俺はそう思うようになった。


――翌日、昼12時――


「よっ! ミナト。待たせたな」


 街中のハンバーガーショップ。窓際の2人がけのテーブルで、『ミナト()』はスマホをいじっていると、大地が笑顔でやってきた。いつも通りの大地だ。



「大地。俺、絵梨奈と別れたんだ。だから……三月の卒業旅行、男2人だな」


 まず最初に、俺は絵里奈と別れた事を伝えた。大地も柊先生と別れたし、お互い独り身だ。


「え? 別れた? どうしてまた……」


 ジュースを一口飲んだあと、大地は驚く。


「ほら、俺、編集会社に就職決まって上京するからさ。絵梨奈とは離れ離れになるし……かと言って、絵梨奈に無理やり上京させてもなぁ。絵梨奈には絵梨奈のやりたい事、あるみたいだから」


 俺はハンバーガーを頬張りながら、それらしい理由を説明した。だけど、実際の理由は違う。俺は絵梨奈を巻き込みたくなかった。それだけだ。


「ミナト。ずっと仲良かったのに……それでいいのか?」


 大地は、悲しそうな表情だ。こうしてみると、大地は相変わらずだ――いいや、ダメだ。相変わらずの大地に惑わされてはいけない。


「いいんだ。俺は後悔してない」


 もし、絵里奈に何かあったら……俺はそっちの方が怖い。だから、これで良かったんだ。

 さて……そろそろ本題に入るか。


「ねえ、大地。あの……柊先生の事、まだ好きなんだろ? でもさ……柊先生の事はもう忘れなよ」


 大地は、ポテトを食べながら表情を変えた――無表情に。


「忘れる? どうして? 俺は香澄を愛しているんだぜ? 忘れるなんてできるかよ」


「柊先生は今、柳木と付き合ってるんでしょ? だったら2人をそっとしてあげなよ。大学卒業して、就職したら、また出会いがあるって。柊先生以上の女性ならいくらでもいるはずだよ。もし、大地に好きな人ができたら、俺が相談のるからさ!」


 我ながら、薄っぺらい説得だなぁ。これで大地が『はい、わかりました』て納得するかな……

 でも、俺は言い続けるんだ。大地が納得するまで。


 大地はただ、無表情でポテトを食べていた。


――


 ハンバーガーショップを出た俺と大地は、二人並んで街を歩く。一応、会話はできている。卒業旅行の事、就職の事とか……もしかして、俺の説得、大地は納得してくれたのか?


 しばらく歩いていると、俺たちは工事中の建物の前を通る。そして、大地はピタっと立ち止まった。


「ミナト」


 大地が俺を呼ぶ。俺は大地より少し前を歩いたところで、後ろを振り向くと――大地は無邪気な笑顔で衝撃的な言葉を放つ。


「もし、ミナトが死んだら……香澄、ミナトの葬式に来るかな?」


 全身がゾクリとした。大地の心臓から生えている無数の黒い手が、俺の心臓を掴んで離さない。俺はそんな感覚に襲われた。


 大地が……そんな恐ろしいことを言うなんて……やめろ……やめろ!!


 俺は、大地の胸ぐらを掴む。


「大地! 冗談でも……そんな事言うなよ! お前、そんな事を言うヤツじゃなかっただろ!」


 大地は上を眺めながら、ボソっとつぶやく。


「そろそろかな」


 大地がつぶやいたあと、空から大量の金属が落下するような音が響く。俺は頭上を見ると――大量の鉄骨が落下している。

 やばい! このままだと大量の鉄骨の下敷きだ。間違いなく即死だ! 俺1人なら簡単に逃げられるけど……大地は助からないぞ!

 俺は、大地を思いっきり突き飛ばした。大地を鉄骨の下敷きにさせないために。大地は、後方へ吹っ飛んだあと、尻もちをつく。

 良かった。あとは俺もこの場から離れて……俺は後遺症が残るレベルの大怪我をするだろうけど、即死は免れるはずだ。そう思った。


「ミナト。お前はなんだかんだでいい奴だな。最初は、優一と同じで、俺の邪魔をするのかと思ったけど――俺のために死んでくれるなんて……香澄にもう一度会わせてくれる機会を作ってくれるなんてな」


 尻もちをついたままの大地は、満面の、犬のような笑顔を見せた。その笑顔からは邪心が感じられない。いつも通りの、大地の笑顔だ。大地は、ただ、純粋に柊先生に会いたいだけだったのだ。

 大地は、俺の死を利用して――俺の葬式に柊先生を来させるつもりだ。俺は殺されるわけではない。これはあくまでも、『事故』だ。


「大地。お前ってヤツは……お前ってヤツは……!」


 この瞬間、俺はある人の顔が浮かんだ。その人は――大地でない、柳木でない、金田でない、柊先生でも絵梨奈でもない……そいつは大地の幼馴染の『桜田(さくらだ) (さとる)』だ。


 俺は自分の無念を涙に込めて、頬を伝って落とすと、世界は一瞬にして真っ黒になった。


 …………


 ……


――1時間後――


「うーん、困ったなぁ。道に迷っちゃった。たった数年でこんなにも街並みが変わるなんて……」


 大きなキャリーケースがカラカラと音を鳴らす。『僕』はある街を1人で歩いていた。この街を歩くのは……高校2年の時以来だ。僕は現在22歳だから……5年ぶりかな。


「あのー、すみません。道に迷ったんですけど……」


 僕は通行人に声をかける事にした。その人はとても背の高い男の人で後ろ姿のシルエットがとても綺麗。モデルかなぁ?

 僕の声に反応したその人は振り向くと、細身の眼鏡がよく似合う端正な顔で僕を見つめる。

 そして、その人は仰天した。


「お前は! 桜田……桜田悟か!? なぜここにいる!」


 桜田悟?

 ……ま、いっか。事情を説明するの面倒だから、()()()()()()をしておこう。

 えーと、個人情報のデータベースによると、このモデルみたいな男は確か……


「えーと、君は……柳木くん? 柳木……優一くん?」


 僕は、桜田(さくらだ) (さとる)のそっくりさん。海外の大学に通っている。大学である程度単位を取った僕は、今日からしばらく日本に滞在する予定だ。

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