十人十色
俺は青倉 ミナト。H大学文学部4年。就職が決まり、卒論の提出も済ませた。大学卒業まであと少しだ。本来なら、大地と柊先生の結婚までのカウントダウンをしているはずだったのに……
――1月中旬――
「ぷはぁぁぁぁ! 卒論の提出、間に合ったぁ……良かった」
俺はスポーツドリンクを飲み干し、空になったペットボトルををゴミ箱に捨てる。卒論の提出も終わったし……大地誘って、どこか遊びに行こうかな。あ、卒業旅行に行くのも悪くないな。
俺は卒論で使うために借りた資料を返しに、図書館へ向かう。
「ん?あの子は……」
図書館の出入り口から、1人の女の子が出てくるのが見えた。遠目で見ると、柊先生によく似た子。大地の今の彼女だ。俺は彼女に近づくと――
「朝比奈さん。こんにちは」
「あ、青倉さん。こんにちは」
彼女は、朝比奈 ユカリ。H大学文学部2年。
見た目は、くりっとした丸い目と小さな鼻と口。髪は少し明るめで長さは胸の辺りまで真っ直ぐに伸びている。身長は小さくて線の細い体つきをしている。
近くで見ると、より一層、柊先生を思い出させる。
「朝比奈さん、図書館で何を?」
「小説を何冊か借りたの。とても面白そうだったから」
「へぇ……そうなんだ」
本を好んで読むところも柊先生と同じだ。もはや、柊先生なんじゃないかと錯覚してしまいそうだ。
「これから大地と待ち合わせだから……もう行きますね。じゃあ」
「え?ああ……じゃあ、また……」
朝比奈さんはそのまま立ち去った。
『大地』かぁ。そりゃあ大地の彼女なんだから呼び捨てなのは当然なんだろうけど……呼び方も柊先生と同じだな。
――
図書館で本を返した後、俺は大学の食堂でカレーを食べていた。晩御飯までまだ時間はあるが、俺は1日5食食べないと耐えられない体だ。ご飯をたくさん食べないと死んじゃう。
カレーを食べ終え、水を飲んでいると、朝比奈さんとその友人が食堂に入ってくるのが見えた。あれ?大地と待ち合わせだったんじゃ……? 朝比奈さんたちは、俺とは少し離れたテーブルに座る。
「ねえ、ユカリ。彼氏はどうしたの?」
「急用で、少し遅れるって」
テーブルは離れていても、朝比奈さんたちの会話が耳に入る。どうやら朝比奈さんたちは俺に気づいていないようだ。
「ねえ、ユカリって本当に彼氏の事、好きなん? 彼氏できる前は医学部の柳木さんが好きとか言ってなかった?」
……は? 柳木?
「そうなんだけどー、柳木さんってライバル多いし、柳木さんを惚れさせるのって難しいみたいじゃない? だから、柳木さんに近い人間を利用して、柳木さんに近づくのが一番いいと思ったのよ」
「へぇ、それがユカリの彼氏なんだ?」
「そ。今年の5月のゴールデンウィーク明けにね、大学近くの喫茶店で二人でいるのを見かけたのよ。大地は地味だし、落とすのは簡単そうだと思ったけど、実際苦労したわ。まったく、地味男のくせに調子乗ってんじゃないわよ」
「うわ、ユカリひっどい……でも、柳木さんって彼女できたって聞いたよ。大丈夫なの?」
「どうせ柳木さんのスペック狙いでしょ? 私なら柳木さんに本当の愛情を注ぎこんであげられるのに」
朝比奈さんの本当の狙いは、柳木かよ。大地は利用されていただけなんだな。……なんか切なくなってきた。
「そういえばさー、ユカリの彼氏の友達の青倉さんだっけ? あの人……野球で有名な人じゃなかったっけ?」
「ああ……青倉さん。いじめられている友人を助けるために、バットで足を折られて、野球辞めたんでしょ? バッカじゃないのって思うわ」
「そうかなぁ? なかなかできない事だし、すごいと思うけど」
「そんなの――自分から突っ込むんじゃなくて、先生とか警察を呼べば済む話なの。なんでそんな事で将来を棒に振るかなぁって思うわ。自己管理が甘いのよ」
まあ、はたから見たら……そう思うよな。朝比奈さんの言う事は正論だと思う。ま、俺は足を折らなくとも野球を辞めるつもりだったけど。あと、桜田のいじめを『そんな事』扱いするのは……さすがにどうかと思う。
「野球できない青倉さんなんて、ただのバカチビでしょ」
ぐっ……俺がバカなのはいいとして、身長低いのはコンプレックスなんだから、そこ刺さないでよ! 俺だって――せめて大地くらいの身長は欲しかったよ。
朝比奈さん――表面は柊先生によく似ているけど、蓋を開けたら……とんでもなく腹黒い人だった。俺は思い悩んだ。
どうしよう。朝比奈さん事、大地に言うべきか……
言うにしろ、言わないにしろ……このままだと大地はポイっと捨てられてしまう。俺は大地が不憫でしょうがなかった。




